〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

『一握の砂』東雲堂版

石川啄木 著(P.98~99)茨島の松の並木の街道を

カエデ 『一握の砂』東雲堂版 煙 一 (P.98) 茨島の松の並木の街道を われと行きし少女 才をたのみき 眼を病みて黒き眼鏡をかけし頃 その頃よ 一人泣くを覚えし <ルビ>茨島=ばらじま。少女=をとめ。 (P.99) わがこころ けふもひそかに泣かむとす 友みな…

啄木・白秋・茂吉 三冊の歌集が現代短歌に与えた巨大な影響

アジサイ 毎日文化センター 講座 近代短歌の青春 啄木・白秋・茂吉 ・講師:関西大学名誉教授 鵜飼康東・講座タイプ:公開講座 ・コース 2019年7/16、8/20、9/17の各火曜13:30~15:00 ・受講料 全3回7,460円 ・開催地 大阪 日本語の思想的な深さ、音感の強…

石川啄木 著(P.96〜97)おどけたる手つきをかしと

[サクラ] 煙 一 (P.96) おどけたる手つきをかしと 我のみはいつも笑ひき 博学の師を 自が才に身をあやまちし人のこと かたりきかせし 師もありしかな <ルビ>自=し。才=さい。 (P.97) そのかみの学校一のなまけ者 今は真面目に はたらきて居り 田舎めく…

石川啄木 著(P.94〜95)愁ひある少年の眼に羨みき

[キンカン] 煙 一 (P.94) 愁ひある少年の眼に羨みき 小鳥の飛ぶを 飛びてうたふを 解剖せし 蚯蚓のいのちもかなしかり かの校庭の木柵の下 <ルビ>愁ひ=うれひ。解剖=ふわけ。蚯蚓=みみず。木柵=もくさく。下=もと。 (P.95) かぎりなき智識の欲に燃ゆる…

石川啄木 著(P.92〜93)神有りと言ひ張る友を

[くもとあめ] 煙 一 (P.92) 神有りと言ひ張る友を 説きふせし かの路傍の栗の樹の下 西風に 内丸大路の桜の葉 かさこそ散るを踏みてあそびき <ルビ>神=かみ。路傍=みちばた。下=もと。内丸大路=うちまるおほぢ。 (P.93) そのかみの愛読の書よ 大方は …

石川啄木 著(P.90〜91)今は亡き姉の恋人のおとうとと

[バラ] 煙 一 (P.90) 今は亡き姉の恋人のおとうとと なかよくせしを かなしと思ふ 夏休み果ててそのまま かへり来ぬ 若き英語の教師もありき <ルビ>来ぬ=こぬ。 (P.91) ストライキ思ひ出でても 今は早や吾が血躍らず ひそかに淋し 盛岡の中学校の 露台…

石川啄木 著(P.88〜89)城址の

[マメガキ] 煙 一 (P.88) 城址の 石に腰掛け 禁制の木の実をひとり味ひしこと その後に我を捨てし友も あの頃はともに書読み ともに遊びき <ルビ>城址=しろあと。木の実=このみ。味ひ=あぢはひ。後=のち。書=ふみ。 (P.89) 学校の図書庫の裏の秋の草 …

石川啄木 著(P.86〜87)晴れし空仰げばいつも

[晴れし空仰げば] 煙 一 (P.86) 晴れし空仰げばいつも 口笛を吹きたくなりて 吹きてあそびき 夜寝ても口笛吹きぬ 口笛は 十五の我の歌にしありけり (P.87) よく叱る師ありき 髯の似たるより山羊と名づけて 口真似もしき われと共に 小鳥に石を投げて遊ぶ…

石川啄木 著(P.84〜85)師も友も知らで責めにき

[キンミズヒキ] 煙 一 (P.84) 師も友も知らで責めにき 謎に似る わが学業のおこたりの因 教室の窓より遁げて ただ一人 かの城址に寝に行きしかな <ルビ>因=もと。遁げ=にげ。城址=しろあと。 (P.85) 不来方のお城の草に寝ころびて 空に吸はれし 十五の…

石川啄木 著(P.82〜83)己が名をほのかに呼びて

[アキノノゲシ] 煙 一 (P.82) 己が名をほのかに呼びて 涙せし 十四の春にかへる術なし 青空に消えゆく煙 さびしくも消えゆく煙 われにし似るか <ルビ>己=おの。術=すべ。 (P.83) かの旅の汽車の車掌が ゆくりなくも 我が中学の友なりしかな ほとばしる…

石川啄木 著(P.80〜81)「煙 一」病のごと

[イヌタデ] 煙 一 (P.80) (白紙) (P.81) 一 病のごと 思郷のこころ湧く日なり 目にあをぞらの煙かなしも <ルビ>病=やまひ。思郷=しきやう。

石川啄木 著(P.78〜79)やとばかり

[ガマズミ] 我を愛する歌 (P.78) やとばかり 桂首相に手とられし夢みて覚めぬ 秋の夜の二時 (P.79) 煙 (タイトルのみ) 《つぶやき》この【『一握の砂』東雲堂版】というカテゴリーを作ったのは、落ち着いて『一握の砂』を隅から隅まで読み直してみたい…

石川啄木 著(P.76〜77)はても見えぬ

[ネジバナ] 我を愛する歌 (P.76) はても見えぬ 真直の街をあゆむごとき こころを今日は持ちえたるかな 何事も思ふことなく いそがしく 暮らせし一日を忘れじと思ふ <ルビ>真直=ますぐ。一日=ひとひ。 (P.77) 何事も金金とわらひ すこし経て またも俄か…

石川啄木 著(P.74〜75)男とうまれ男と交り

[ワレモコウ] 我を愛する歌 (P.74) 男とうまれ男と交り 負けてをり かるがゆゑにや秋が身に沁む わが抱く思想はすべて 金なきに因するごとし 秋の風吹く <ルビ>交り=まじり。 (P.75) くだらない小説を書きてよろこべる 男憐れなり 初秋の風 秋の風 今…

石川啄木 著(P.72〜73)顔あかめ怒りしことが

[雨のあと・ヒペリカム・ヒドコート] 我を愛する歌 (P.72) 顔あかめ怒りしことが あくる日は さほどにもなきをさびしがるかな いらだてる心よ汝はかなしかり いざいざ すこし呿呻などせむ <ルビ>怒り=いかり。汝=なれ。呿呻=あくび。 (P.73) 女あり …

石川啄木 著(P.70〜71)叱られて

[ゼニアオイ] 我を愛する歌 (P.70) 叱られて わつと泣き出す子供心 その心にもなりてみたきかな 盗むてふことさへ悪しと思ひえぬ 心はかなし かくれ家もなし <ルビ>子供心=こどもごころ。悪し=あし。かくれ家=かくれが。 (P.71) 放たれし女のごとき…

石川啄木 著(P.68〜69)夜明けまであそびてくらす場所が欲し

[バイカウツギ] 我を愛する歌 (P.68) 夜明けまであそびてくらす場所が欲し 家をおもへば こころ冷たし 人みなが家を持つてふかなしみよ 墓に入るごとく かへりて眠る (P.69) 何かひとつ不思議を示し 人みなのおどろくひまに 消えむと思ふ 人といふ人のこ…

石川啄木 著(P.66〜67)あたらしき心もとめて

[ワスレナグサ] 我を愛する歌 (P.66) あたらしき心もとめて 名も知らぬ 街など今日もさまよひて来ぬ 友がみなわれよりえらく見ゆる日よ 花を買ひ来て 妻としたしむ <ルビ>来ぬ=きぬ。 (P.67) 何すれば 此処に我ありや 時にかく打驚きて室を眺むる 人…

石川啄木 著(P.64〜65)誰が見ても

我を愛する歌 (P.64) 誰が見ても われをなつかしくなるごとき 長き手紙を書きたき夕 うすみどり 飲めば身体が水のごと透きとほるてふ 薬はなきか <ルビ>誰=たれ。夕=ゆふべ。身体=からだ。 (P.65) いつも睨むラムプに飽きて 三日ばかり 蝋燭の火に…

石川啄木 著(P.62〜63)ある日のこと

[クヌギ] 我を愛する歌 (P.62) ある日のこと 室の障子をはりかへぬ その日はそれにて心なごみき かうしては居られずと思ひ 立ちにしが 戸外に馬の嘶きしまで <ルビ>室=へや。居られず=をられず。戸外=おもて。嘶き=いななき。 (P.63) 気ぬけして廊…

石川啄木 著(P.60〜61)邦人の顔たへがたく卑しげに

[焼きたての麺麭に似たり] 我を愛する歌 (P.60) 邦人の顔たへがたく卑しげに 目にうつる日なり 家にこもらむ この次の休日に一日寝てみむと 思ひすごしぬ 三年このかた <ルビ>邦人=くにびと。休日=やすみ。一日=いちにち。三年=みとせ。 (P.61) 或る時…

石川啄木 著(P.58〜59)遠方に電話の鈴の鳴るごとく

[アカガシ] 我を愛する歌 (P.58) 遠方に電話の鈴の鳴るごとく 今日も耳鳴る かなしき日かな 垢じみし袷の襟よ かなしくも ふるさとの胡桃焼くるにほひす <ルビ>遠方=ゑんぱう。鈴=りん。垢=あか。袷=あはせ。胡桃=くるみ。 (P.59) 死にたくてなら…

石川啄木 著(P.56〜57)うぬ惚るる友に

[モミジバフウの実] 我を愛する歌 (P.56) うぬ惚るる友に 合槌うちてゐぬ 施与をするごとき心に ある朝のかなしき夢のさめぎはに 鼻に入り来し 味噌を煮る香よ <ルビ>うぬ惚る=うぬぼる。合槌=あひづち。施与=ほどこし。欲り=ほり。来し=きし。 (P.57)…

石川啄木 著(P.54〜55)とある日に

[トクサ] 我を愛する歌 (P.54) とある日に 酒をのみたくてならぬごとく 今日われ切に金を欲りせり 水晶の玉をよろこびもてあそぶ わがこの心 何の心ぞ <ルビ>今日=けふ。切に=せちに。欲り=ほり。何=なに。 (P.55) 事もなく 且つこころよく肥えてゆく …

石川啄木 著(P.52〜53)人並の才に過ぎざる

[ヘクソカズラ] 我を愛する歌 (P.52) 人並の才に過ぎざる わが友の 深き不平もあはれなるかな 誰が見てもとりどころなき男来て 威張りて帰りぬ かなしくもあるか (P.53) はたらけど はたらけど猶わが生活楽にならざり ぢつと手を見る 何もかも行末の事み…

石川啄木 著(P.50〜51)我に似し友の二人よ

我を愛する歌 (P.50) 我に似し友の二人よ 一人は死に 一人は牢を出でて今病む あまりある才を抱きて 妻のため おもひわづらふ友をかなしむ <ルビ>牢=ろう。出で=いで。 (P.51) 打明けて語りて 何か損をせしごとく思ひて 友とわかれぬ どんよりと くも…

石川啄木 著(P.48〜49)友よさは

[浪花(ボタン)] 我を愛する歌 (P.48) 友よさは 乞食の卑しさ厭ふなかれ 餓ゑたる時は我も爾りき 新しきインクのにほひ 栓抜けば 餓ゑたる腹に沁むがかなしも <ルビ>厭ふ=いとふ。爾りき=しかりき。 (P.49) かなしきは 喉のかわきをこらへつつ 夜寒の…

石川啄木 著(P.46〜47)何やらむ

[カリン] 我を愛する歌 (P.46) 何やらむ 穏かならぬ目付して 鶴嘴を打つ群を見てゐる 心より今日は逃げ去れり 病ある獣のごとき 不平逃げ去れり <ルビ>穏か=おだやか。目付=めつき。鶴嘴=つるはし。群=むれ。病=やまひ。獣=けもの。 (P.47) おほどかの…

石川啄木 著(P.44〜45)時ありて

[サルスベリ] 我を愛する歌 (P.44) 時ありて 子供のやうにたはむれす 恋ある人のなさぬ業かな とかくして家を出づれば 日光のあたたかさあり 息ふかく吸ふ <ルビ>業=わざ。 (P.45) つかれたる牛のよだれは たらたらと 千万年も尽きざるごとし 路傍の切…

石川啄木 著(P.42〜43)ことさらに燈火を消して

[浅草の凌雲閣(浅草寿町)] 我を愛する歌 (P.42) ことさらに燈火を消して まぢまぢと思ひてゐしは わけもなきこと 浅草の凌雲閣のいただきに 腕組みし日の 長き日記かな <ルビ>燈火=ともしび。凌雲閣=りよううんかく。腕組み=うでくみ。日記=にき。 (P…