我を愛する歌
(P.64)
誰が見ても
われをなつかしくなるごとき
長き手紙を書きたき夕
うすみどり
飲めば身体が水のごと透きとほるてふ
薬はなきか
<ルビ>誰=たれ。夕=ゆふべ。身体=からだ。
(P.65)
いつも睨むラムプに飽きて
三日ばかり
蝋燭の火にしたしめるかな
人間のつかはぬ言葉
ひよつとして
われのみ知れるごとく思ふ日
<ルビ>睨む=にらむ。三日=みか。蝋燭=らふそく。
《つぶやき》
「うすみどり」の歌は、キアゲハの幼虫がサナギになるときの様子を思い出す。幼虫は身体中の不要なものを全て出し、透き通る淡い緑色になるという。悶え苦しみながら、しかも自分の脱皮した皮を食べながらだそうだが…。わたしは、透明になりたいと願う啄木の気持ちに未来を感じる。