我を愛する歌
(P.70)
叱られて
わつと泣き出す子供心
その心にもなりてみたきかな
盗むてふことさへ悪しと思ひえぬ
心はかなし
かくれ家もなし
<ルビ>子供心=こどもごころ。悪し=あし。かくれ家=かくれが。
(P.71)
放たれし女のごときかなしみを
よわき男の
感ずる日なり
庭石に
はたと時計をなげうてる
昔のわれの怒りいとしも
《つぶやき》
「放たれし女のごときかなしみを」の歌は、この歌集『一握の砂』後、啄木が亡くなってから発行された『悲しき玩具』の歌と≪放たれし女のごと≫のことばが同じである。
放たれし女のごとく、
わが妻の振舞ふ日なり。
ダリヤを見入る。
二つの歌に出てくる男と女の違いが興味深い。