〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

石川啄木 著(P.62〜63)ある日のこと

[クヌギ]


我を愛する歌


(P.62)


   ある日のこと
   室の障子をはりかへぬ
   その日はそれにて心なごみき


   かうしては居られずと思ひ
   立ちにしが
   戸外に馬の嘶きしまで
   

<ルビ>室=へや。居られず=をられず。戸外=おもて。嘶き=いななき。


(P.63)


   気ぬけして廊下に立ちぬ
   あららかに扉を推せしに
   すぐ開きしかば


   ぢつとして
   黒はた赤のインク吸ひ
   堅くかわける海綿を見る


<ルビ>扉=ドア。推せ=おせ。開き=あき。