[ワスレナグサ]
我を愛する歌
(P.66)
あたらしき心もとめて
名も知らぬ
街など今日もさまよひて来ぬ
友がみなわれよりえらく見ゆる日よ
花を買ひ来て
妻としたしむ
<ルビ>来ぬ=きぬ。
(P.67)
何すれば
此処に我ありや
時にかく打驚きて室を眺むる
人ありて電車のなかに唾を吐く
それにも
心いたまむとしき
<ルビ>何=なに。此処=ここ。打驚き=うちおどろき。室=へや。唾=つば。
《つぶやき》
「友がみなわれよりえらく見ゆる日よ」と、啄木は誰しも抱く感情をさらりと表す。啄木の癒しは花に妻。
自分はなんだろうと、思いに耽る。