〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

啄木と花

「林檎  <6>」-啄木の歌に登場する花や木についての資料- (おわり)

林檎<6>-啄木の歌に登場する花や木についての資料- 林檎 石狩の都の外の 君が家 林檎の花の散りてやあらむ やがてその年の瀬も暮れて、明けて正月六日の朝に、待ちに待った智恵子からの封書を手にする。封を切るのももどかしく、一気に読み下した啄木は、…

「林檎  <5>」-啄木の歌に登場する花や木についての資料-

林檎<5>-啄木の歌に登場する花や木についての資料- 林檎 石狩の都の外の 君が家 林檎の花の散りてやあらむ 「石狩の都」(石狩平野の「都」は札幌)の郊外、「君が家」、「林檎の花」。土地と花とそこに住む女性。美しい地名と花とが相乗して、「君」とそ…

「林檎  <4>」-啄木の歌に登場する花や木についての資料-

林檎<4>-啄木の歌に登場する花や木についての資料- 林檎 石狩の都の外の 君が家 林檎の花の散りてやあらむ 札幌市東区・橘家庭園の「林檎の碑」<碑陰> 札幌村元村の林檎は橘仁が此地に定住し苗木を植付せる時より始まる 仁は明治十七年春 苗木妻戸籍を…

「林檎  <3>」-啄木の歌に登場する花や木についての資料-

林檎<3>-啄木の歌に登場する花や木についての資料- 林檎 石狩の都の外の 君が家 林檎の花の散りてやあらむ 弥生小学校に在職当時さきに述べたように現実のその女性をまのあたりにして寄せた恋情にはもちろん深切なものがあったに違いないが、すでに妻子の…

「林檎  <2>」-啄木の歌に登場する花や木についての資料-

林檎<2> -啄木の歌に登場する花や木についての資料- 林檎 石狩の都の外の 君が家 林檎の花の散りてやあらむ 札幌の大きな林檎園の娘で弥生小学校の同僚教員であった橘智恵子に捧げた「忘れがたき人々 二」から。小奴の場合とちがって、こちらのほうは官能…

「林檎  <1>」-啄木の歌に登場する花や木についての資料-

林檎<1> -啄木の歌に登場する花や木についての資料- 林檎 石狩の都の外の 君が家 林檎の花の散りてやあらむ 初出「文章世界」明治43年11月号 札幌郊外のあなたの家では林檎の白い花が散っているであろうか。 橘智恵子の実家は北海道札幌村にあった。父は…

「啄木と花」 大根の花白きゆふぐれ

真生(SHINSEI)2020年 no.313 「石川啄木と花」 近藤典彦 第十六回 大根の花 宗次郎に おかねが泣きて口説き居り 大根の花白きゆふぐれ (宗次郎=そうじろ)(口説き居り=くどきをり) 作歌は1910年(明治43)10月中旬。初出は「スバル」(明治43年11月号…

「啄木と花」 花散れば 先づ人さきに白の服

サクラ 真生(SHINSEI)2020年 no.312 「石川啄木と花」 近藤典彦 第十五回 桜の花 花散れば 先づ人さきに白の服着て家出づる 我にてありしか (出づる=いづる) 作歌は1910年(明治43)10月中旬。初出は「スバル」(明治43年11月号)。『一握の砂』(明治4…

「ダリア <4>」-啄木の歌に登場する花や木についての資料- (おわり)

ダリア<4> -啄木の歌に登場する花や木についての資料- ダリア 放たれし女のごとく、 わが妻の振舞ふ日なり。 ダリヤを見入る。 「放たれし女」とは、束縛から解放されて自由になった女、の意となります。当時の女性にとって束縛の最たるものは「家」の制…

「ダリア <3>」-啄木の歌に登場する花や木についての資料-

ダリア<3> -啄木の歌に登場する花や木についての資料- ダリア 放たれし女のごとく、 わが妻の振舞ふ日なり。 ダリヤを見入る。 「ダリヤ」の華麗なイメージが、「放たれ」、「振舞ふ」、躍動することばと映し合い、夫の妻への微かな関心が暗示される。あ…

「ダリア <2>」-啄木の歌に登場する花や木についての資料-

ダリア<2> -啄木の歌に登場する花や木についての資料- ダリア 放たれし女のごとく、 わが妻の振舞ふ日なり。 ダリヤを見入る。 ふれあわない夫婦の感情の齟齬をよんだ一首。寄り添わない気持を抱いて振舞う妻と、それを意識にもちながら黙々とダリヤの花…

「ダリア <1>」-啄木の歌に登場する花や木についての資料-

ダリア<1> -啄木の歌に登場する花や木についての資料- ダリア 放たれし女のごとく、 わが妻の振舞ふ日なり。 ダリヤを見入る。 初出「悲しき玩具」 いかにも追放された女のように私の妻が悲しげに振舞う日である。私は心さびしくダリアを見つめるのである…

「トウモロコシ=玉蜀黍 <3>」-啄木の歌に登場する花や木についての資料- (おわり)

玉蜀黍<3> -啄木の歌に登場する花や木についての資料- 玉蜀黍 しんとして幅広き街の 秋の夜の 玉蜀黍の焼くるにほひよ 石川啄木・その短歌と「におい」天野慈朗 ・「におい」が連想される言葉が使われている102首の短歌についてだけに限定。・最も多く用…

「トウモロコシ=玉蜀黍 <2>」-啄木の歌に登場する花や木についての資料-

玉蜀黍<2> -啄木の歌に登場する花や木についての資料- 玉蜀黍 しんとして幅広き街の 秋の夜の 玉蜀黍の焼くるにほひよ 宮崎郁雨「歌集『一握の砂』を讀む」 札幌の街の空氣がよくうつし出されてゐる。『しんとして幅廣き街』の一句で札幌の全体を云ひ盡し…

「トウモロコシ=玉蜀黍 <1>」-啄木の歌に登場する花や木についての資料-

玉蜀黍<1> -啄木の歌に登場する花や木についての資料- 玉蜀黍 しんとして幅広き街の 秋の夜の 玉蜀黍の焼くるにほひよ 初出「一握の砂」 しんと静まりかえった札幌の幅広い街の秋の夜の、玉蜀黍の焼けるにおいよ。 初出は歌集『一握の砂』。 区画整然とし…

「ツツジ=躑躅」-啄木の歌に登場する花や木についての資料-

-啄木の歌に登場する花や木についての資料- 躑躅 わが庭の白き躑躅を 薄月の夜に 折りゆきしことな忘れそ 初出「一握の砂」 私の庭の白いつつじを、おぼろ月夜に折っていったことを決して忘れなさいますな。 初出は歌集「一握の砂」。宝徳寺の裏庭での上野さ…

「啄木と花」 白き蓮沼に咲くごとく

ハス 真生(SHINSEI)2019年 no.311 「石川啄木と花」 近藤典彦 第十四回 白蓮 白き蓮沼に咲くごとく かなしみが 酔ひのあひだにはつきりと浮く 作歌は1910年(明治43)8月8日。初出は東京毎日新聞(明治43年8月31日)「何にもかも」(五首)の一首。『一握…

「啄木と花」 名も知らぬ鳥啄めり赤き茨の実

[ハマナス] 真生(SHINSEI)2019年 no.309 「石川啄木と花」 近藤典彦 第十三回 いばら 愁ひ来て、 丘にのぼれば 名も知らぬ鳥啄めり赤き茨の実 (啄めり=ついばめり)(茨の実=ばらのみ) 作歌は1908年(明治41)8月。『一握の砂』(明治43年12月刊)所収。…

「啄木と花」 札幌は しめやかなる恋の多くありさうなる都なり

[ポプラ] 真生(SHINSEI)2018年 no.308 「石川啄木と花」 近藤典彦 第十二回 アカシヤ アカシヤの街樾にポプラに 秋の風 吹くがかなしと日記に残れり (街樾=なみき 日記=にき) 作歌は1910年(明治43)10月。『一握の砂』(明治43年12月刊)所収。 第六回…

 わが庭の白き躑躅を……『一握の砂』の想像を絶する仕掛け

[ツツジ] 真生(SHINSEI)2018年 no.307 「石川啄木と花」 近藤典彦 第十一回 白い躑躅 わが庭の白き躑躅を 薄月の夜に 折りゆきしことな忘れそ 作歌は1910年(明治43)10月。『一握の砂』(明治43年12月刊)所収。さて、『一握の砂』は最初東雲堂から出版さ…

 梅の鉢を火に焙りしが……〈無粋な歌〉ではなく〈すぐれた作品〉

[ウメ] 真生(SHINSEI)2018年 no.306 「石川啄木と花」 近藤典彦 第十回 梅 ひと晩に咲かせてみむと、 梅の鉢を火に焙りしが、 咲かざりしかな。 作歌は1911年(明治44)1月17日。『悲しき玩具』所収。 句読点のある三行書短歌ですから、『一握の砂』ではな…

 「黄なる花咲きし 今も名知らず」啄木のこの歌はなぜ人の心を打つのか

[アキノキリンソウ] 真生(SHINSEI)2017年 no.305 「石川啄木と花」 近藤典彦 第九回 黄なる草花(今も名知らず) 学校の図書庫(としょぐら)の裏の秋の草 黄なる花咲きし 今も名知らず 作歌は1910年(明治43)10月。『一握の砂』所収。 名歌秀歌ひしめく…

「矢車草 <5> おわり」-啄木の歌に登場する花や木についての資料-

「矢車草 <5>」 -石川啄木の歌に登場する花や木についての資料- 矢車草 函館の青柳町こそかなしけれ 友の恋歌 矢ぐるまの花 函館の青柳町──そこにはまさしく友がいて、友情の花が咲いていた。まだまだ自分も未来を信じていいのだと、ひそかに心に呟いたこ…

「矢車草 <4>」-啄木の歌に登場する花や木についての資料-

「矢車草 <4>」 -石川啄木の歌に登場する花や木についての資料- 矢車草 函館の青柳町こそかなしけれ 友の恋歌 矢ぐるまの花 二度と戻らぬ函館の日々を振り返る啄木は、「函館の青柳町こそかなしけれ」と感傷的な眼差しを向ける。しかしこの歌においては感…

「矢車草 <3>」-啄木の歌に登場する花や木についての資料-

「矢車草 <3>」 -石川啄木の歌に登場する花や木についての資料- 矢車草 函館の青柳町こそかなしけれ 友の恋歌 矢ぐるまの花 函館公園、それは明治40年の青柳町を扇の形に配置した、文字どおりの要であった。それはまた、啄木が青柳町に住み、この世に没し…

「矢車草 <2>」-啄木の歌に登場する花や木についての資料-

「矢車草 <2>」 -石川啄木の歌に登場する花や木についての資料- 矢車草 函館の青柳町こそかなしけれ 友の恋歌 矢ぐるまの花 この歌は特定の人を歌ったものでなく、苜蓿社の人びとを懐かしがってのちに歌ったもので、矢車の花は函館では六月から七月に咲き…

「矢車草 <1>」-啄木の歌に登場する花や木についての資料-

「矢車草 <1>」 -石川啄木の歌に登場する花や木についての資料- 矢車草 函館の青柳町こそかなしけれ 友の恋歌 矢ぐるまの花 初出「スバル」明治43年11月号 家の周囲に矢車の花が咲き、友と文学を語り恋愛を談じ作歌に親しんだあの青柳町時代がとりわけて…

厳寒の旭川に「列車の窓に花のごと…」啄木

[旭川駅構内の石川啄木像・歌碑 2012年建立] 真生(SHINSEI)2017年 no.303 「石川啄木と花」 近藤典彦 第八回 窓ガラスに咲く花 水蒸気 列車の窓に花のごと凍てしを染むる あかつきの色 作歌は1910年(明治43)10月上旬。『一握の砂』(1910年12月刊)所収…

ダリア「放たれし女のごとく、わが妻の…」啄木

[ダリア] 真生(SHINSEI)2016年 no.302 「石川啄木と花」 近藤典彦 第七回 ダリア 何か、かう、書いてみたくなりて、 ペンを取りぬ── 花活の花あたらしき朝。 放たれし女のごとく、 わが妻の振舞ふ日なり。 ダリヤを見入る。 作歌は1911年(明治44)6月下旬…

かの浜薔薇よ「愛した人もケンカした人もみんな元気ですか?」啄木

[ハマナス] 真生(SHINSEI)2016年 no.301 「石川啄木と花」 近藤典彦 第六回 浜薔薇(はまなす)の花 潮かをる北の浜辺の 砂山のかの浜薔薇よ 今年も咲けるや 作歌は1910年(明治43)10月。『一握の砂』所収。 啄木は1907年5月から翌年4月まで北海道を転々…