煙 一
(P.90)
今は亡き姉の恋人のおとうとと
なかよくせしを
かなしと思ふ
夏休み果ててそのまま
かへり来ぬ
若き英語の教師もありき
<ルビ>来ぬ=こぬ。
(P.91)
ストライキ思ひ出でても
今は早や吾が血躍らず
ひそかに淋し
盛岡の中学校の
露台の
欄干に最一度我を倚らしめ
<ルビ>早や=はや。吾が血=わがち。躍らず=をどらず。露台=バルコン。欄干=てすり。最一度=もいちど。倚らしめ=よらしめ。
《つぶやき》
「盛岡の中学校の」の歌。
倚るところ、倚れるところ、倚ってもガッシリと支えてくれるところに我を置きたい。心の中に心棒のようなものを持っていたい。啄木にとっての倚るところは、盛岡中学校の露台であったのだろうか。