[バイカウツギ]
我を愛する歌
(P.68)
夜明けまであそびてくらす場所が欲し
家をおもへば
こころ冷たし
人みなが家を持つてふかなしみよ
墓に入るごとく
かへりて眠る
(P.69)
何かひとつ不思議を示し
人みなのおどろくひまに
消えむと思ふ
人といふ人のこころに
一人づつ囚人がゐて
うめくかなしさ
《つぶやき》
「何かひとつ不思議を示し」の歌からは、人生の幕引きを思った。
- 啄木の妻節子の臨終のようすを宮崎郁雨が伝えている。
- そして目を閉じて『もう死ぬから皆さんさようなら』と云ひましたが、二三分してまた目を開き『なかなか死なないものですねえ』と云った時はもう皆が泣いてゐた時でした。それからもう一度『皆さんさようなら』と云って目を閉じると、口から黄色い泡を一寸出しましたがそれで永久のわかれでありました。