〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

啄木と花

「ツツジ=躑躅」-啄木の歌に登場する花や木についての資料-

-啄木の歌に登場する花や木についての資料- 躑躅 わが庭の白き躑躅を 薄月の夜に 折りゆきしことな忘れそ 初出「一握の砂」 私の庭の白いつつじを、おぼろ月夜に折っていったことを決して忘れなさいますな。 初出は歌集「一握の砂」。宝徳寺の裏庭での上野さ…

「啄木と花」 白き蓮沼に咲くごとく

ハス 真生(SHINSEI)2019年 no.311 「石川啄木と花」 近藤典彦 第十四回 白蓮 白き蓮沼に咲くごとく かなしみが 酔ひのあひだにはつきりと浮く 作歌は1910年(明治43)8月8日。初出は東京毎日新聞(明治43年8月31日)「何にもかも」(五首)の一首。『一握…

「啄木と花」 名も知らぬ鳥啄めり赤き茨の実

[ハマナス] 真生(SHINSEI)2019年 no.309 「石川啄木と花」 近藤典彦 第十三回 いばら 愁ひ来て、 丘にのぼれば 名も知らぬ鳥啄めり赤き茨の実 (啄めり=ついばめり)(茨の実=ばらのみ) 作歌は1908年(明治41)8月。『一握の砂』(明治43年12月刊)所収。…

「啄木と花」 札幌は しめやかなる恋の多くありさうなる都なり

[ポプラ] 真生(SHINSEI)2018年 no.308 「石川啄木と花」 近藤典彦 第十二回 アカシヤ アカシヤの街樾にポプラに 秋の風 吹くがかなしと日記に残れり (街樾=なみき 日記=にき) 作歌は1910年(明治43)10月。『一握の砂』(明治43年12月刊)所収。 第六回…

 わが庭の白き躑躅を……『一握の砂』の想像を絶する仕掛け

[ツツジ] 真生(SHINSEI)2018年 no.307 「石川啄木と花」 近藤典彦 第十一回 白い躑躅 わが庭の白き躑躅を 薄月の夜に 折りゆきしことな忘れそ 作歌は1910年(明治43)10月。『一握の砂』(明治43年12月刊)所収。さて、『一握の砂』は最初東雲堂から出版さ…

 梅の鉢を火に焙りしが……〈無粋な歌〉ではなく〈すぐれた作品〉

[ウメ] 真生(SHINSEI)2018年 no.306 「石川啄木と花」 近藤典彦 第十回 梅 ひと晩に咲かせてみむと、 梅の鉢を火に焙りしが、 咲かざりしかな。 作歌は1911年(明治44)1月17日。『悲しき玩具』所収。 句読点のある三行書短歌ですから、『一握の砂』ではな…

 「黄なる花咲きし 今も名知らず」啄木のこの歌はなぜ人の心を打つのか

[アキノキリンソウ] 真生(SHINSEI)2017年 no.305 「石川啄木と花」 近藤典彦 第九回 黄なる草花(今も名知らず) 学校の図書庫(としょぐら)の裏の秋の草 黄なる花咲きし 今も名知らず 作歌は1910年(明治43)10月。『一握の砂』所収。 名歌秀歌ひしめく…

「矢車草 <5> おわり」-啄木の歌に登場する花や木についての資料-

「矢車草 <5>」 -石川啄木の歌に登場する花や木についての資料- 矢車草 函館の青柳町こそかなしけれ 友の恋歌 矢ぐるまの花 函館の青柳町──そこにはまさしく友がいて、友情の花が咲いていた。まだまだ自分も未来を信じていいのだと、ひそかに心に呟いたこ…

「矢車草 <4>」-啄木の歌に登場する花や木についての資料-

「矢車草 <4>」 -石川啄木の歌に登場する花や木についての資料- 矢車草 函館の青柳町こそかなしけれ 友の恋歌 矢ぐるまの花 二度と戻らぬ函館の日々を振り返る啄木は、「函館の青柳町こそかなしけれ」と感傷的な眼差しを向ける。しかしこの歌においては感…

「矢車草 <3>」-啄木の歌に登場する花や木についての資料-

「矢車草 <3>」 -石川啄木の歌に登場する花や木についての資料- 矢車草 函館の青柳町こそかなしけれ 友の恋歌 矢ぐるまの花 函館公園、それは明治40年の青柳町を扇の形に配置した、文字どおりの要であった。それはまた、啄木が青柳町に住み、この世に没し…

「矢車草 <2>」-啄木の歌に登場する花や木についての資料-

「矢車草 <2>」 -石川啄木の歌に登場する花や木についての資料- 矢車草 函館の青柳町こそかなしけれ 友の恋歌 矢ぐるまの花 この歌は特定の人を歌ったものでなく、苜蓿社の人びとを懐かしがってのちに歌ったもので、矢車の花は函館では六月から七月に咲き…

「矢車草 <1>」-啄木の歌に登場する花や木についての資料-

「矢車草 <1>」 -石川啄木の歌に登場する花や木についての資料- 矢車草 函館の青柳町こそかなしけれ 友の恋歌 矢ぐるまの花 初出「スバル」明治43年11月号 家の周囲に矢車の花が咲き、友と文学を語り恋愛を談じ作歌に親しんだあの青柳町時代がとりわけて…

厳寒の旭川に「列車の窓に花のごと…」啄木

[旭川駅構内の石川啄木像・歌碑 2012年建立] 真生(SHINSEI)2017年 no.303 「石川啄木と花」 近藤典彦 第八回 窓ガラスに咲く花 水蒸気 列車の窓に花のごと凍てしを染むる あかつきの色 作歌は1910年(明治43)10月上旬。『一握の砂』(1910年12月刊)所収…

ダリア「放たれし女のごとく、わが妻の…」啄木

[ダリア] 真生(SHINSEI)2016年 no.302 「石川啄木と花」 近藤典彦 第七回 ダリア 何か、かう、書いてみたくなりて、 ペンを取りぬ── 花活の花あたらしき朝。 放たれし女のごとく、 わが妻の振舞ふ日なり。 ダリヤを見入る。 作歌は1911年(明治44)6月下旬…

かの浜薔薇よ「愛した人もケンカした人もみんな元気ですか?」啄木

[ハマナス] 真生(SHINSEI)2016年 no.301 「石川啄木と花」 近藤典彦 第六回 浜薔薇(はまなす)の花 潮かをる北の浜辺の 砂山のかの浜薔薇よ 今年も咲けるや 作歌は1910年(明治43)10月。『一握の砂』所収。 啄木は1907年5月から翌年4月まで北海道を転々…

「青柳町」は 啄木にとって幸福な函館のシンボル

[ヤグルマギク] 真生(SHINSEI)2016年 no.300 「石川啄木と花」 近藤典彦 第五回 矢ぐるまの花 函館の青柳町こそかなしけれ 友の恋歌 矢ぐるまの花 作歌は1910年(明治43)10月。『一握の砂』所収。 わたくしが啄木短歌に触れたのは、1953年(昭和28)中学…

啄木「友がみなわれよりえらく見ゆる日よ/花を買ひ来て…」何の花?

[カレイドスコープ] 真生(SHINSEI)2015年 no.299 「石川啄木と花」 近藤典彦 第四回 鉄砲百合 友がみなわれよりえらく見ゆる日よ 花を買ひ来て 妻としたしむ 作歌は1910年(明治43)10月。『一握の砂』所収。 若い人から今もっとも共感を得ている啄木の歌…

澄んで明るい青空、りんごの白い花びらが舞い落ちる…啄木

[「林檎の碑」橘智恵子実家の庭(札幌市東区)] 真生(SHINSEI)2015年 no.298 「石川啄木と花」 近藤典彦 第三回 林檎の花 石狩の都の外(そと)の 君が家 林檎の花の散りてやあらむ 作歌は1910年(明治43)10月。『一握の砂』所収。 < 1959年(昭和34)私…

石川啄木「馬鈴薯のうす紫の花に降る…」みごとな仕掛けに満ちた歌

[「真生」掲載ページ] 真生(SHINSEI)2015年 no.297 「石川啄木と花」 近藤典彦 第二回 馬鈴薯の花 馬鈴薯のうす紫の花に降る 雨を思へり 都の雨に 作歌は1910年(明治43)10月。『一握の砂』所収。 「馬鈴薯」はジャガイモ。径二、三センチのうす紫か白の…

「浜薔薇 (ハマナス)」-啄木の歌に登場する花や木についての資料-

-石川啄木の歌に登場する花や木についての資料- 浜薔薇 (ハマナス) 潮かをる北の浜辺の 砂山のかの浜薔薇よ 今年も咲けるや 初出「一握の砂」 潮のかおる北の浜辺の砂山のあの浜なすの花よ。今年も美しく咲いていることであろうか。 大森浜の海岸の砂山の…

「ヒバ」-啄木の歌に登場する花や木についての資料-

-石川啄木の歌に登場する花や木についての資料- ヒバ ふるさとの寺の畔の ひばの木の いただきに来て啼きし閑古鳥! 畔=ほとり 初出「新日本」明治44年7月号 ああ、故郷の寺のそばのひばの木のいただきに来て鳴いた閑古鳥の懐かしいことよ。 本林勝夫氏は、…

「梅」-啄木の歌に登場する花や木についての資料-

-石川啄木の歌に登場する花や木についての資料- 梅 ひと晩に咲かせてみむと、 梅の鉢を火に焙りしが、 咲かざりしかな。 初出「創作」明治44年2月号 一晩のうちに梅の花をなんとか咲かせてみようと思って、梅の鉢を火にあぶったが、咲かなかったことだ。 (…

啄木の雅号「白蘋(はくひん)」近藤典彦

[小さな白い水草] 真生(SHINSEI)2015年 no.296 「石川啄木と花」 近藤典彦 第一回 白蘋 啄木のお父さんは曹洞宗のお坊さんでした。石川一(本名)がその幼少期を過ごした家は、北岩手郡渋民村の宝徳寺でした。 石川一は「啄木」の前に「白蘋(はくひん)」…