〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

「啄木と花」 大根の花白きゆふぐれ

真生(SHINSEI)2020年 no.313

石川啄木と花」 近藤典彦


  第十六回 大根の花

  宗次郎に
  おかねが泣きて口説き居り
  大根の花白きゆふぐれ

     (宗次郎=そうじろ)(口説き居り=くどきをり)

 

 作歌は1910年(明治43)10月中旬。初出は「スバル」(明治43年11月号)。『一握の砂』(明治43年12月刊)所収。

 

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  • この歌には昔から二つの解釈があります。
  • 「口説く」には、「くどくどと言う」と「恋情を訴えて交際を迫る」の二つの意味があるからです。
  • 前者だと「宗次郎」に「おかね」が泣きながらくどくどと言っている。
  • 後者だと「宗次郎」に「おかね」が自分の恋心を聞いてもらおうと泣きながら訴えている。
  • わたくしは前者説です。

 

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(文字は小さいですが、写真をお読みください。おかねさん・宗次郎さん・二人の息子たちの様子も。[「啄木の息」管理者])

 


【解釈】宗次郎の飲んだくれに困りはてたおかねが、いい加減にしてくれと泣きながらくどくど訴えている。大根の花の群れが白く浮かぶあの秋の夕暮れよ。

  • この歌の全体を引き立たせる重要な箇所(すなわち警策)は、明らかに三行目、もっとしぼれば大根の花、です。この地味な野菜の花が秋の夕暮れに醸し出す、ロマンチックな雰囲気、一種の花やぎ。これがあるので後者の説が根強く生き続けるのでしょう。
  • すべて地味な言葉だけを用いて、芝居の一シーンを切り取ったかのような、花のあるこの歌。井上ひさしさんが「日本史上で五指に入る、日本語の使い手です」と讃えた石川啄木ならではの傑作です。


<真生流機関誌「真生(SHINSEI)」2020年 no.313 季刊>(華道の流派)