ダリア<1>
-啄木の歌に登場する花や木についての資料-
ダリア
放たれし女のごとく、わが妻の振舞ふ日なり。
ダリヤを見入る。
初出「悲しき玩具」
いかにも追放された女のように私の妻が悲しげに振舞う日である。私は心さびしくダリアを見つめるのである。
ダリア
メキシコ原産の多年草。葉は羽状複葉で茎の先端に花をつける。夏から秋、大型の白・紅・黄・紫などの花を開く。咲き方は、シングル咲き、アネモネ咲き、カクタス咲き、デコラチューブ咲き、ピオニー咲き、ポンポン咲き、コラレット咲きなどある。日本では1842年頃(天保時代)オランダ船により渡来し、テンジクボタン(天竺牡丹)と呼ばれた。和名はスウェーデンの植物学者 Dahl の名にちなむ。
この花はナポレオンの妃ジョゼフィーヌが一時夢中になり、珍しい品種を集めた。「譲ってほしい」と言われても誰にも譲ろうとしなかった。それをねたんだ貴族が、花の一つを盗み出し自分の庭で咲かせた。それを知って、ジョゼフィーヌのダリア熱は冷めてしまった。
花ことば 華麗・移り気・不安定・優雅・威厳・感謝・気紛れ・裏切り・気品
(黄) 栄華・優美 (赤) 栄華・華麗・あふれる喜び
- 日記によると節子夫人とイサカイを生じ、そのころの作であるから、たぶん夫から解放されたという意味が濃いと解釈できよう。
- 人形の家をとび出し、社会の波にもまれながら生活するノラの悲しみを感じる。啄木が “放たれし女の悲しみ” を感じなければならなかつたところに、啄木の弱みもさらけだされているが、弱点をさらけだしていることによつて、もつとも切実に、婦人問題にぶつかつていたと云えるのではないだろうか。
(信夫澄子 「放たれし女」 「文藝」 河出書房 昭和30年3月 臨時増刊)
- ふだんはおとなし過ぎるほどおとなしく、口うるさい姑の手前、ろくに口も利けないような妻が、どういう心境の変化か、まるで解放された女性のごとく、はつらつと振る舞っている。夫にとっては何か珍しいものでも見せられたように、なかば呆気にとられてその自信ありげな口の利きかた、軽やかな立居振舞いに見とれている、といったような情景が描かれている。
- ダリヤの花言葉の総称が「不安」であるのはこの場合たいへん面白い。
(吉田孤羊 『歌人啄木』 洋々社 昭和48年)
(つづく)