〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

「紅苜蓿  <10>」-啄木の歌に登場する花や木についての資料-

紅苜蓿  <10>

-啄木の歌に登場する花や木についての資料-

 

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  • 啄木から函館に行きたいという話があったとき、苜蓿社の面々は「鶏舎に孔雀が舞い込むようなものだ」と言い合って、心から歓迎した。
  • 啄木の処女詩集『あこがれ』は、東京市長尾崎行雄に献じられ、上田敏の序詩に与謝野鉄幹の跋文を付したものであった。東京を遠く離れた北の街で、地道に働きながら詩や短歌や散文を書いていた青年たちにとって、「天才詩人」啄木の登場は、まさに「鶏舎に孔雀」と感じられたであろう。
  • 興味津々で待っていた同人たちの前に現れたのは、小柄で丸刈りの、書生のような青年であった。人なつっこい顔立ちだったが、眼差しは炯々として、いかにも詩人であった。
  • 函館の青柳町──そこにはまさしく友がいて、友情の花が咲いていた。まだまだ自分も未来を信じていいのだと、ひそかに心に呟いたことであろう。のちに「死ぬときは函館で死にたい」と啄木に言わしめたのは、友情に支えられた日々の記憶であったことは疑い得ない。
  • 後年郁雨は「実際と夢想のけぢめも弁へぬ様な、若い日々を送つてゐた」「苜蓿社の同人も啄木も皆若かつた」と回想するが、まさしく彼らは若く尊いときを共有したのであった。

(山下多恵子 『啄木と郁雨 友の恋歌 矢ぐるまの花』 未知谷 2010年)

 


 

  • 函館市文学館に展示されている明治40年発行の『紅苜蓿』第一冊を眺めてみる。確かに色は褪めてはいるが、大島流人がデザインした表紙画の「うまごやし」は明らかに「アカツメクサ」そのものである。そのデザインはあか抜けしていて、百年後の今でも十分に通用する表紙となっている。
  • ろくろっ首の如くにひょろりと伸びた葉柄にふんわりと乗っかって納まっている球状の花の集合体は、白っぽく見える。しかし、印刷時では赤みの勝ったピンク色であっただろう。復刻版ではそうなっている。その球状体のすぐ根元に三枚の倒卵形の小葉三枚が白いV字形の模様を付けて二対が対生している。これは疑いもなくアカツメクサを意匠化したものである。別名レッド・クローバーである。岩崎白鯨は「其の中に雑誌の表紙画も出来た。三色刷の紅苜蓿を画いたものであった。」と前記「苜蓿社と其周囲」の(二)を書き始めている。

(竹原三哉 『啄木の函館 ─実に美しき海区なり─』 紅書房 2012年)

 

(つづく)