〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

啄木「友がみなわれよりえらく見ゆる日よ/花を買ひ来て…」何の花?


[カレイドスコープ]


真生(SHINSEI)2015年 no.299

 石川啄木と花」 近藤典彦
  第四回 鉄砲百合


  友がみなわれよりえらく見ゆる日よ
  花を買ひ来て
  妻としたしむ

  • 作歌は1910年(明治43)10月。『一握の砂』所収。
  • 若い人から今もっとも共感を得ている啄木の歌、といえばこの歌かもしれません。一読して意が通じ、心にしみます。ところが、この分かりやすいはずの歌には、一行目からして誤解があります。友はみな出世しているのに、自分だけは…と。そうではないのです。自分自身の問題で落ち込んだので、友がみな「えらく」(すぐれて)見える、というのです。
  • この歌は1910年のある時期落ち込んだことがあって、そのころの自分をふりかえって詠んだものです。
  • さて、そのとき啄木はどうしたか。「花」を買いました。これが何の花なのか。考えた人は管見の限り一人もいません。わたくしも啄木の別の歌から、漠然と赤い花を連想していました。今回初めて調べました。分かった、百合の花です。
  • 1902年(明治35)10月末、啄木は盛岡中学を退学し、「世界の大詩人」になるべく上京しました。月々の仕送りもない、心細い冬の日々が始まります。11月8日堀合節子(後の啄木夫人)からの手紙が届きます。封筒にある差し出し人は「百合子」。啄木は「ああ、わが恋しの白百合の花よ」と日記に。30日には節子の写真が届き、それを枕許に飾って寝ます。「朝めさむれば、枕頭に匂ふ白百合のみ姿あり」(日記)


(以下割愛 ・節子との情熱の三夜 ・1908年6月23日「紫陽花と白い鉄砲百合を」買う ・1909年4月ごろ、啄木は白百合を見つけ、すぐに買う(この白百合に籠もる意味は…)


<真生流機関誌「真生(SHINSEI)」2015年 no.299 季刊>(華道の流派)