〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

かの浜薔薇よ「愛した人もケンカした人もみんな元気ですか?」啄木


[ハマナス]


真生(SHINSEI)2016年 no.301

 石川啄木と花」 近藤典彦
  第六回 浜薔薇(はまなす)の花


  潮かをる北の浜辺の
  砂山のかの浜薔薇よ
  今年も咲けるや

  • 作歌は1910年(明治43)10月。『一握の砂』所収。
  • 啄木は1907年5月から翌年4月まで北海道を転々しました。函館から釧路まで。そして上京。二年半後の1910年秋、北海道で出会った人々をうたうこと百余首。それらは『一握の砂』の第四章「忘れがたき人人」に収められます。掲出歌はこの章全体のプロローグになっています。
    • 「潮かをる北の浜辺」は函館の大森浜、百年前の空と同様海もまた美しかった。詩人はこの一行目に、北海道の大地、の意味も持たせています。
    • 「砂山」は大森浜にあった巨大な砂丘。夏になると「浜薔薇」が咲き乱れました。「浜薔薇」は北海道で出会ったすべてのなつかしい人たち、をも意味します。
    • 「今年も咲けるや」は今年も咲いているか。さらに「元気ですか?」の意味も。
  • 【解釈】潮の香高い大森浜の、砂山に咲き乱れていた浜薔薇よ、今年も美しく咲いているか?(北海道の大地の一角で、ひたむきに生活しているなつかしい人たちよ。親しい人も行きずりの人も、愛した人もケンカした人も、みんなみんな元気ですか。)
  • 格調高くさわやかで、心がこもっていて花のある、集中でも名歌の一つです。
  • 「浜薔薇」は学名Rosa rugosa(ロサ・ルゴサ)。葉にシワの多いバラ、という意味。古来日本に自生するれっきとしたバラの花。花は原種のバラとしてはほとんど類を見ない大きさで、あざやかな紫紅色。香りも高い。
  • ハマナスの花の美を発見し、それを歌にして日本人に知らせたのが、石川啄木だったのです。
  • 以上垣間見たすべての源泉が啄木の一首なのです。


<真生流機関誌「真生(SHINSEI)」2016年 no.301 季刊>(華道の流派)