〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

 第一歌集の巻頭歌はその人の特色を反映する 『歌集 夏の領域』


[オニユズ]


〇書評
『歌集 夏の領域』 柔軟に向き合う詠

  『歌集 夏の領域』佐藤モニカ著 本阿弥書店・2808円

  • 第一歌集の巻頭歌はその人の特色を反映すると言われ啄木の『一握の砂』は「東海の小島の磯の白砂に/われ泣きぬれて/蟹とたはむる」だが、『夏の領域』の次の巻頭歌はどうか。

 一つ残しボタンをはづすポロシャツは夏の領域増やしゐるなり

  • ボタンを外す開放感がアクティブな青春を思わせて読者をぐいと惹(ひ)きつける。同じ一連には「『ずつと一緒』のずつととはどのあたりまでとりあへず次は部瀬名岬(ぶせなみさき)」もあり、伸びやかでスピード感のあるこうした世界に私たちは、ああ健やかで行動的な新人が登場したな、と期待を膨らませた。
  • 夫の沖縄赴任に従って佐藤は沖縄の人となるが、巻頭歌の一連が沖縄での歌だったことも偶然とはいえ縁(えにし)を感じさせる。自在な表現力を持ったこうした新人が沖縄に根を下ろしたときにどんな世界が表現されるのか。これは新しい沖縄詠の第一歩を記した歌集でもある。

(三枝昻之・歌人

(2017-11-26 琉球新報


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