〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

石川啄木 著(P.8〜9)目さまして猶起き出でぬ児の癖は


[雨のあと]


我を愛する歌


(P.8)


   目さまして猶起き出でぬ児の癖は
   かなしき癖ぞ
   母よ咎むな


   ひと塊の土に涎し
   泣く母の肖顔つくりぬ
   かなしくもあるか


<ルビ>猶起き出でぬ児=なほ おきいでぬ こ。ひと塊=ひとくれ。涎し=よだれし。肖顔=にがほ


(P.9)


   燈影なき室に我あり
   父と母
   壁のなかより杖つきて出づ


   たはむれに母を背負ひて
   そのあまり軽きに泣きて
   三歩あゆまず


<ルビ>燈影なき室=ほかげなきしつ。


《つぶやき》
「燈影なき室に我あり」の歌は何時もドキッとする。杖をつきながら出てくる人影が見え、3Dの世界が始まる。