〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

啄木は前に進む力を持っている!

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グミ

啄木没後110年 浮かびあがる魅力の大きさ

13日は、岩手出身の石川啄木の没後110年の節目だった。現代を生きる人たちに、啄木はどう響いているのか。

  • 岩手日報発行の「啄木 うたの風景」によると、各地に歌碑や詩碑、記念碑が建てられ、岩手で96カ所、青森5カ所、秋田1カ所などが確認されている。啄木の母・カツの兄で伯父である葛原対月(かつらはらたいげつ)が住職を務めた常光寺(青森県野辺地町)の近くの公園には歌碑があり、母方の曽祖母が生まれた秋田県鹿角市の市役所の前には詩碑がある。

 

  • 一方、啄木は活発な評論活動もしていた。だが、短歌ほど知られていない。
    「啄木は評論でも現代に通じるものを書き残した」そう語るのは、啄木や宮沢賢治などの東北の文学を研究する盛岡大文学部の塩谷昌弘准教授だ。若くして亡くなる1年半ほど前に書いた「時代閉塞(へいそく)の現状」という評論がある。塩谷さんはこれについて「啄木の現実を見る目が表れている」と指摘する。
  • さらに塩谷さんは「興味深い啄木像を描き出している」と、ある小説を挙げた。昨年急逝したジャーナリストで小説家の外岡秀俊さんの小説「北帰行」だ。
    同作は「時代閉塞の現状」について触れている。作中では、啄木には叙情性と批評性があると言及。それが一体となった作品として、主人公が「時代閉塞の現状」を挙げている。
  • 「短歌か評論か、ではない啄木像。彼は短い生涯で幅広い分野の作品を書き残した。その中には今後深められたであろう考えもあった。つまり、彼は未完成のまま亡くなった」と塩谷さん。その上で、こう述べる。「だからこそ、様々な角度から探究し、啄木像を常に更新していかなければならないと考えています」(唐沢俊介)

 

ギャラリートーク

  • 盛岡市渋民の石川啄木記念館では13日、啄木の没後110年に合わせ、学芸員によるギャラリートークが開かれた。十数人が参加。同館で開催中の収蔵資料展「啄木と渋民~小説『鳥影』より~」の展示をもとに、啄木の青春期の葛藤や創作の舞台と渋民との関係などが解説された。
  • 学芸員の藤田麗さん(23)は「人はそれぞれ異なる背景を持っているのに、啄木は短歌という限られた詩型で、人々を魅了していく」と説明。「特に前に進む力を持っていると感じる」と話した。(三浦英之)

(2022-04-15 朝日新聞