〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

啄木って女々しい! 賢治は気持ち悪い!


[ドクダミ]


週刊朝日 2012年7月27日号
「暖簾にひじ鉄」内館牧子(連載コラム No.545)

啄木派 VS. 賢治派

  • 岩手県民って、石川啄木派と宮沢賢治派が居酒屋で口論するんだよ。…普通のオジサンやオバサンが口角泡を飛ばして、啄木が一番、賢治が一番ってやってるんだから」

いつだったか、私はこう聞かされ、笑ったことがある。いくら岩手が生んだ二大巨匠であろうと、いくら岩手が文学県であろうと、今時そんな……。

  • ところがだ、ある夜、盛岡の焼肉店で、私は本当にその口論を耳にしてしまったのである。

「そりゃあ、啄木の方が文学者として上だよ。啄木が故郷を歌った歌なんて日本人みんなが共感するから、日本中が泣くんだ」
「あら、そんなに故郷がいいなら、何で岩手を出て行ったのよ。賢治は最後まで岩手で自然と共に生きたのよ。…」
「啄木って女々しいよ」
「あら、私は賢治の方が気持ち悪い」

  • 今年で啄木没後100年、賢治は来年で没後80年。これほどの時間がたっても、岩手県民は2人の文学者を酒の肴にし、口論もする。こういう町を「文化都市」というのではないかと思う。