[ホオズキ]
我を愛する歌
(P.38)
死ね死ねと己を怒り
もだしたる
心の底の暗きむなしさ
けものめく顔あり口をあけたてす
とのみ見てゐぬ
人の語るを
<ルビ>己を怒り=おのれをいかり。
(P.39)
親と子と
はなればなれの心もて静かに対ふ
気まづきや何ぞ
かの船の
かの航海の船客の一人にてありき
死にかねたるは
<ルビ>対ふ=むかふ。何ぞ=なぞ。船客=せんかく。
《つぶやき》
「けものめく顔あり口をあけたてす」る、その相手を啄木は好きではない。いや、嫌いだ。いくら自分の考えに囚われていったとしても、「けものめく」とは言うまい。