伝わる批評とは何か 10年分の時評をまとめた歌人・松村正直さん
聞き手・佐々波幸子
歌人の松村正直さんが10年分の時評を『踊り場からの眺め――短歌時評集2011―2021』(六花書林)にまとめた。昨年春までの2年間、朝日新聞の歌壇俳壇面で執筆した短歌時評も収録。「世代による感覚の違いが大きな時代だからこそ、開かれた批評が大事」と話す松村さんに聞きました。
短歌とはどのように出会ったのですか。
- 北海道・函館の「びっくりドンキー」というチェーン店の厨房(ちゅうぼう)でハンバーグを焼いていた25歳のころ、店のすぐ近くに啄木小公園があり、初めて石川啄木の墓が函館にあるんだと知りました。自分が住む町について知っておきたいと、箱館戦争や北洋漁業をテーマにした本を読んでいて、そうした流れで函館ゆかりの啄木の歌集を岩波文庫で読んだんです。小説が全く日の目を見なくて、かなり鬱々(うつうつ)とした暮らしをしていた時に啄木の歌を読んで、「これなら僕もできそうだ」と作り始めました。
- 短歌って不思議と、作ると誰かに読んでもらいたくなる詩型なんですよ。当時とっていた毎日新聞に投稿欄があったので、送り始めました。毎日歌壇は朝日歌壇と違って共選ではなく、選者を決めて送るスタイルで、年配の選者に向けて送っても採ってもらえなくて、やっぱり短歌もだめなんだなと思っていたら、河野裕子さんに採ってもらって。それがもう、すごくうれしくて。そこからすべてが始まりました。
最近は……
- 三十一文字という定型がある短歌は、本来、世代の違う人同士が話をする土台になるものです。実生活で80代の人と20代の人が直接フランクにしゃべる機会はあまりないけれど、短歌を通して、率直なやりとりが実際に行われています。僕は今50代なので、上の世代のことも下の世代のことも、ある程度わかるつもりです。だから、批評や歌会を通じて両者の橋渡しができたらいいですね。今年は積極的にあちこち出掛けていって、多くの人たちと短歌について気軽に語り合えたらと思っています。
(2022-05-09 朝日新聞)
伝わる批評とは何か 10年分の時評をまとめた歌人・松村正直さん:朝日新聞デジタル