〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

啄木は(死んでしまった人) ということは、生きていたのか、ここで、本当に。

ルピナス

みちのく随想

「雨は負けない」  くどうれいん

  • 雨にも負けず、と言われるのが幼いころから悔しかった。「いつか雨は晴れる」や「涙のような雨」という言葉もきらい。いつだって雨はあいにくのお天気だ。
  • わたしの名前は「玲音」と言う。れいん、と読む。英語で雨を意味する「RAIN」とおなじ発音をするから、物心ついた時から妙に雨のことを意識してしまう。
  • 4月13日は啄木忌だったので、会社を休んで啄木記念館のギャラリートークを聞きに行った。石川啄木の書いた小説『鳥影』を中心に、渋民村と啄木のつながりや小説家としての啄木の人柄を紹介する企画展。大変刺激的だった。宝徳寺で啄木にお焼香を上げることができると聞き、記念館を後にして歩く。
  • いざお焼香をあげるとなってわたしは驚いた。祭壇の前に立ってはじめてちゃんと啄木のことを(死んでしまった人)と思ったのだ。
  • 死んでしまった人。ということは、生きていたのか、ここで、本当に。白黒写真がカラーになるようにぶわぁっと、いままで当たり前に過ごしていた盛岡が石川啄木という日本の歌人とその歴史の延長線上にあることを実感する。岩手の歌人だとみんな言いたがるけれど、啄木は日本の歌人だと思う。そして、わたしも岩手の作家ではなく日本の作家になりたいと思う。なれるだろうか。

(第7回啄木・賢治のふるさと岩手日報随筆賞受賞者、盛岡市

(2022-05-07 岩手日報