<観天望記 編集局長・桑原昇>
夢がかなうということ
- 結婚式の会場は間借りの一部屋だった。明治38(1905)年、5月の終わり。花嫁をはじめ集まった家族や友人は、10日も前に東京を発ち帰郷してくる新郎を待っていた。
- 待ち続けた……が、いくら待てども新郎はやって来ない。仕方なく新婦だけで式は挙げられた。
- 新郎はそのころ、途中下車して知人から借金し、ぐずぐずと遊び回っていた。要するに、祝言をすっぽかしたのである。新妻の待つその間借りの家にようやく姿を見せたのは4日後のことだった。新郎は数えで20歳。のちの歌人、石川啄木である。
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〈人みなが家を持つてふかなしみよ/墓に入るごとく/かへりて眠る〉
- かなった夢、かなわなかった夢。それを分かつものは何だろう。新婚の家でしばし思いにふける。気づけばもう新聞大会が始まる時刻。部屋のあるじをまねて、すっぽかした…なんてことはない。(月1回掲載)
(2021-11-29 佐賀新聞)
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