〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

啄木の成長と変化の視点 -現代詩への提言- 池田 功

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詩と思想」2021年7月号 表紙

詩と思想」(土曜美術社出版販売)407号 2021年7月

巻頭言

 現代詩への提言 石川啄木の成長と変化の視点から  池田 功

 明治時代の文学者石川啄木の、その成長と詩風の変化を記すことにより、現代詩についての何らかの提言になれば有り難いと思う。

  • 啄木は、生涯に三六〇編ほどの詩を残している。十代後半で書いた詩集『あこがれ』は、ほとんど評価されず、また読まれることも少ない。それは古語や雅語を駆使した観念的で、かつ抽象的な内容で難解であるからであろう。
  • 二十三歳になった啄木は、「弓町より 食ふべき詩」(1909年)に、以下のように記している。「謂ふ心は、両足を地面に喰つ付けてゐて歌ふ詩といふ事である。(中略)珍味乃至は御馳走ではなく、我々の日常の食事の香の物の如く、然く我々に『必要』な詩といふ事である。」と。
  • 啄木は「弓町より 食ふべき詩」の中で「詩人」という特別な存在を否定する。「私は詩人といふ特殊なる人間の存在を否定する。詩を書く人を他の人が詩人と呼ぶのは差支ないが、其当人が自分は詩人であると思つては可けない(中略)詩人たる資格は三つある。詩人は先第一に『人』でなければならぬ。(中略)さうして実に普通人の有つてゐる凡ての物を有つてゐるところの人でなければならぬ。」と。

 世間一般の生活感情と同じ目線で、正直にそして無理のない言葉を紡ぎ出した時、啄木作品は後世の読者に共感され読み継がれるものになった。そのことを肝に銘じたいものである。

 

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巻頭言 池田 功