〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

人々の心の動きを見事に取り出した 啄木

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風土計

  • 実感が薄いまま、新年になった。往来や人の集まる場所を避けた年末年始。初詣や初売りなど恒例の行事がいつもと違う正月休みは心が躍らない。
  • 110年前。石川啄木は「何となく、/今年はよい事あるごとし。/元日の朝、晴れて風無し。」と詠んだ。特に変わったことがなくても晴れやかな感じがする。それだけだが、新年を迎えた気持ちが表れているようで心に残る。
  • 現実の啄木は年末に体の異変を感じ、2月に慢性腹膜炎で入院。前年に新聞社の歌壇を立ち上げ、歌集「一握の砂」刊行など仕事が軌道に乗りかけていた。不調は退院後も続いた。この時代に最も恐れられた感染症結核の症状だった。
  • 短歌に日常生活詠を持ち込んだのは啄木の功績とされる。人々の大事な心の動きを見事に取り出した「心の索引」と評した作家もいた。短い生涯に詠んだ歌が今も愛される理由の一つだろう。

(2021-01-03 岩手日報