ドナルド・キーンさんの秘めたメッセージ
「地震や津波、原発事故があっても日本人が落ち着いていたことに感心しました。日本人が好きです。日本人として死にたい」。そう言って、日本人になった日本文学の研究者、ドナルド・キーンさんには伝えたいことがありました。生涯にわたって日本を愛したキーンさんの秘めたメッセージです。
(科学文化部記者 籔内潤也)
- ドナルド・キーンさんはことし2月、96歳で東京で亡くなりました。谷崎潤一郎、川端康成、三島由紀夫などとも交友するとともに、日本の古典文学から世に知られていない人の日記まで分析しています。その中で、日本人の繊細さや心の機微に魅力を感じていたと言います。
- 2019年3月29日、記者の私はアメリカ ニューヨークにあるコロンビア大学にいました。キーンさんゆかりの日本文学の翻訳賞の受賞式が開かれていました。会場でキーンさんの思い出を多くの人が語る中で、1人、少し違った角度から語る人がいました。キーンさんと晩年の数年間、親密なメールの交換をしていた日本文学研究者、アメリカ タフツ大学のチャールズ・イノウエ教授でした。会場でメールの一部を紹介しました。
〇「石川啄木について連載しているが、難しい。彼の作品のすばらしさと、彼の人を不快にさせるような人生との間で揺れ動く」(2014年4月13日)
〇「首相の靖国神社への参拝が気にかかっている。以前、私は日本が左翼に乗っ取られるのではないかと心配していたが、今は右翼が乗っ取らないか心配だ」(2013年12月27日)
- 私はキーンさんの率直なメールに驚き、イノウエ教授とキーンさんの養子、誠己さんの許可を得て、メールのやり取りを見せてもらいました。そこには日本への強い警鐘が記されていました。
〇「政府がオリンピック開催にこだわるなら、東京ではなくて東北で開くべきだろう」(2014年1月14日)
- メールの中でキーンさんが特に強調していたのが日本の平和でした。キーンさんの目には、最近の日本の様子が、戦後築き上げてきた平和を損なうように見えていました。さらに憲法の改正が議論になり始めても、歴史や平和について無関心な日本の状況に失望していました。
〇「もう二度と日本が戦争の苦しみを経験してほしくない。もし、もう一度、戦争が起きると、一巻の終わりだ」(2014年1月14日)
(2019-09-30 NHK NEWS WEB)
News Up ドナルド・キーンさんの秘めたメッセージ | NHKニュース