[紅葉]
「一握の砂を示しし人」とは誰か
頬につたふ/なみだのごはず/一握の砂を示しし人を忘れず
- 啄木の歌集『一握の砂』の東海歌に続く歌。歌集題名の「一握の砂」が詠み込まれた唯一の歌で、非常に重要な歌です。しかし、これまで多くの評者は「一握の砂を示しし人」は特定の人ではないとか啄木自身だとか、要領を得ない解釈でお茶を濁してきました。
- 筆者はすでにこの「一握の砂」が、父一禎の宗派である曹洞宗の開祖・道元禅師の「典座教訓」に由来するもので、逆境の中で自信を奮い立たせる祈りの言葉であったことを示しました。この言葉を歌集のタイトルにすえた啄木にとって、「一握の砂」とは歌集の中の一首一首であり、「一握の砂を示しし人」とは、歌集『一握の砂』の掲出歌で詠まれた一人一人でした。
- 歌集『一握の砂』は巻頭に宮崎郁雨、金田一京助への献辞を置いていますが、「頬につたふ〜」は、歌集『一握の砂』の歌に登場するすべての人々に対する、啄木の隠された献辞の歌だったのです。
(盛岡市議会議員・後藤百合子「後援会だより 第36号」)