〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い息づかいに触れてみたい

 《 杳然とたそがれて来ぬその時につと我離る君は人妻 》 石川啄木


[森鴎外記念館]


 [森鴎外と観潮楼歌会] 角川「短歌」2017・10
中立的歌会の熱  東 直子

  • 千駄木江戸川乱歩の小説『D坂の殺人事件』の舞台となった団子坂がある。この坂を登っていくと、文京区立森鴎外記念館にたどり着く。ここは、鴎外が30歳から60歳で亡くなるまでの30年間を過ごした自宅のあった場所でもある。当時二階から海が見えたことからこの家を「観潮楼}と呼んでいた。鴎外が自宅で定期的に開いた歌会は、いつしか「観潮楼歌会」と呼ばれるようになった。
  • 第一回は、明治40年3月30日。明治43年4月16日が最後。約3年、全26回。
  • 日記等の資料から判明している作品数では6回参加の石川啄木が37首と断トツで多く、この会に参加できた啄木の喜びと興奮が伝わるようである。

   杳然とたそがれて来ぬその時につと我離る君は人妻(人妻)    石川啄木
   われ日毎ことなる色の戸をかぞへゆけど猶見ず我が死の戸を(戸)   石川啄木
   一すじの黒髪をもて南北に我を引くなり女と女(筋)   石川啄木

  • 明治41年10月3日、啄木22歳の時の作品で、括弧内はそれぞれの題である。たそがれが迫る中での人妻への意識、毎日使う「戸」から発生した死生観、一すじの黒髪が象徴する女性の凄み。題の言葉から生み出されるの発想の自在さと繊細な実感、濃密さ等、啄木の独特の才が伝わる。

(角川「短歌」2017年10月号 特集 和歌革新運動)