〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

啄をかみしめて若者を見送りたい 山口新聞


[カンヒザクラ]


四季風 -山口新聞-

  • 「ふるさとの訛(なまり)なつかし停車場の…」。石川啄木の歌集『一握の砂』に収められる歌のいくつかは、多くの人が胸に刻み込み、ふっと口ずさんだ経験をお持ちだろう。26歳で生涯を閉じた啄木の本名は石川一(はじめ)。ペンネーム啄木の意味をご存じの方、特に漢字通の方なら常識だろうが、野鳥キツツキは「啄木鳥」の字が当てられる。
  • 「啄」とは抱卵中の親鳥が卵の外から殻をコンコンとつつくこと。逆に、中のヒナが今まさに外に出ようと殻を内からコツコツつつくのを「そつ(口へんに卒)」という。機を得て両者が応じ合う得難い好機、という意味の四字熟語「そっ啄(たく)同時」はここから生まれた。親鳥が啄を一瞬でも誤ればヒナの命は危なくなる。ヒナの“そつ”もしかり。早くても遅くてもいけないのだ。
  • 別れの季節。進学や就職で家、故郷を離れる若者も多い。彼らが「ふるさとの山に向かひて言ふことなし/ふるさとの山はありがたきかな」といつか言えるよう、まさに今、啄をかみしめて見送りたい。(佐)

(2016-03-11 山口新聞)

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