〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

三陸の海《 海が見たくて海に来ぬこころ傷みてたへがたき日に 》『一握の砂』


[ミツマタ]


産経抄 -産経新聞-

  • 岩手県出身の石川啄木は盛岡中学3年の夏、級友と連れ立ち三陸沿岸の旅に出た。陸前高田、大船渡などを経て釜石に至り、しばしわらじを脱いでいる。明治29(1896)年の三陸地震による大津波が沿岸部を洗ってから、わずか4年後という。
  • 釜石の市街地に歌碑がある。〈ゆゑもなく海が見たくて海に来ぬこころ傷みてたへがたき日に〉。『一握の砂』に収まるこの歌は、旅の10年後に東京の空の下で詠まれた。人々を裏切り、多くの命をのみ込み、なお人の心を捉えて離さないのが三陸の海なのだろう。
  • 1千人超の死者・行方不明者を出し、一方で震災時に小中学校にいた児童生徒から犠牲者を出さなかった「釜石の奇跡」がある。あの震災が教えるものは、万能の防災策などないということだろう。ひたすら逃げろ。海に言葉があるなら、そう答えそうな気がする。

(2016-03-13 産経新聞

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