〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

『橋のない川』<その7>-終 啄木は、ふるさとの山はありがたきかな、と歌ったが…


[大正ガラス]


《作品に登場する啄木》
  橋のない川
    住井すゑ 新潮社


(つづき)
<その7>

第五部
《落花の賦》

孝二たちは夕日にきらめく校舎の窓をうしろに、やがて大橋を西に越えた。
西の山なみ──金剛、葛城、二上、生駒は、きょうもその存在のままを空に対けている。誇張もなく、自負もなく、失意もなく──。
“ 啄木は、ふるさとの山はありがたきかな、と歌ったが、誰か、 “ 山になりたい、” と言いはしなかったろうか? ”
思いながら孝二は山を眺めた。
山を眺めながら孝二は歩いた。
常にも増して山は美しかった。

(『橋のない川』終)