〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

「ふるさとに入りて先づ心傷むかな」石川啄木


[麦青く]


 [大弦小弦]

〈春の山、春の水、春の野、麦青く風暖かにして、わが追憶の国は春の日の照らす下に、いと静かに、いと美しく横はれり〉

  • 明治後期の1907年、石川啄木が故郷・岩手渋民村から一家離散する際、したためた日記だ。冠雪した岩手山、水辺輝く北上川。故郷喪失のつらい思いとともに国民的詩人を育んだ大地が目に浮かぶ
  • 震災発生から3カ月。死者1万5千人余、行方不明は8千人以上。岩手含む東北の傷はあまりに深い。「ふるさとに入りて先(ま)づ心傷(いた)むかな」。今啄木の胸中を察するならこの望郷詩の一行だろうか
  • 苦しき運命にも屈しなかった啄木に、がれきの中で負けじと闘う被災者が重なり合う。3・11を永遠に忘れぬと東北の地を「追憶の国」としたい。(中島一人)

(2011-06-11 沖縄タイムス