砂の握一
著木啄川石
版堂雲東
- 明治43年12月1日発行
『一握の砂』石川啄木 著(P.1)序文 藪野椋十
(P.(1))
世の中には途法も無い仁もあるものぢや,歌集の序を書けとある,
人もあらうに此の俺に新派の歌集の序を書けとぢや。ああでも
無い,かうでも無い,とひねつた末が此んなことに立至るのぢやら
う。此の途法も無い處が即ち新の新たる極意かも知れん。
定めしひねくれた歌を詠んであるぢやらうと思ひながら手當り
次第に繰り展げた處が,
高きより飛び下りるごとき心もて
この一生を
終るすべなきか
此ア面白い,ふン此の刹那の心を常住に持することが出來たら,至
極ぢや。面白い處に氣が着いたものぢや,面白く言ひまはしたも
のぢや。