〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

かつて啄木と同じことをした県出身者がいただろう 「ふるさとの訛なつかし 停車場の人ごみの中に そを聴きにゆく」

啄木歌碑 上野駅構内

北斗星

  • 50年近く前に家族と旧国鉄の特急列車に乗り、初めて上京した際に降り立ったのは現在のJR上野駅だった。秋田県から首都圏への主要交通機関が特急か急行の列車という時代、上野はそれらの終着駅であり「東京の北の玄関口」と呼ばれていた。
  • 利便性の良さから駅前やその周辺には県や市町村などが運営する宿泊施設があり、出張の職員や県民に利用された。夜行列車の乗客に浴室を提供する施設もあったという。
  • だが上野駅を巡る情勢は変化する。東北新幹線は85年に上野まで延び、91年には東京駅まで延伸。上野は終着駅ではなくなった。97年の秋田新幹線開業後は上野と本県を結ぶ寝台列車などが廃止。本県関係の公的宿泊施設も全て閉鎖された。
  • 今月上旬に上野駅を訪れた。ホームに岩手県出身の石川啄木が詠んだ「ふるさとの訛(なまり)なつかし/停車場の人ごみの中に/そを聴きにゆく」の歌碑がある。かつて啄木と同じことをした県出身者がいただろう。現在県外に出ている若者たちも郷愁に浸れる場所を見つけているだろうか。

(2023-07-30 秋田魁新報

 

北斗星(7月30日付)|秋田魁新報電子版