〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

大谷翔平の胸中を 啄木の歌を借りて表現すれば……

トウモロコシ

大谷、働けど働けど…

逆風順風

  • はたらけどはたらけど猶(なお)わが生活(くらし)楽にならざり……。どれだけ投げて打ってもチームは借金生活、というエンゼルス大谷翔平の胸中を、ふるさと岩手の歌人石川啄木の歌を借りて表現すればそんなところか。
  • メジャーに移籍して以来昨季までの4年、まだワールドシリーズへと続くポストシーズン出場はない。
  • 窮乏から逃れられなかった啄木と違い、大谷には住む家を代えるという手がある。移籍だ。今季のトレード期限を前にして、移籍が取り沙汰された。あのとき、勝てる球団へ移れていれば、ポストシーズンの活躍を楽しめたのに。
  • 誰より、大谷自身が安易に勝ち馬に乗ることを潔しとしない気配がある。絶望的な状況でも捨て鉢にならないところに、自分の力でチームを引き上げよう、との気概がのぞく。
  • 啄木の歌の最後は「ぢつと手を見る」。大谷がじっと見るのは何か。それが将来の移籍先候補のリストであれば、まだ救われる気がするが、大谷はエンゼルスという家を見限るでもなく、自分の手を見ている感じ。切ないけれど、我々もじっと見守るしかない。

(篠山正幸)

(2022-08-18 日本経済新聞

 

大谷、働けど働けど…: 日本経済新聞