よみうり寸評
- 最初の出版社に持ち込まれた歌集は随分違う姿だったらしい。石川啄木の『一握の砂』の話である。原稿料の折り合いがついた別の業者から世に出たとき、短歌は三行書きという新様式で表記され、題名も改められていた。『仕事の後』なる原題の名残がのぞく歌がある。
こころよき疲れなるかな/息もつかず/仕事をしたる後のこの疲れ
- 絶唱がもう一つ、思い出される。
いのちなき砂のかなしさよ/さらさらと/握れば指のあひだより落つ
- 誰もがこぼれ落ちることのない社会への願いが募るきょう没後109年の啄木忌である。
(2021-04-13 讀賣新聞)