〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

鰻とカレーと石川啄木

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チダケサシ

風土計 [岩手日報]

  • お国自慢はいろいろあるけれど「アユとマツタケと、そして鰻は、だれでも自分の郷里が日本一だと思っている」。そんなことを野村胡堂が書いている。
  • 盛岡の鰻を愛し、盛岡中時代には城下の鰻屋で仲間の金田一京助を囲む会を開くなどした。返礼として金田一が旅館で歌会を開いた時、食事にカレーライスが出た。生まれて初めて見るカレーに皆が肝をつぶしたが。
  • その場にいた石川啄木だけは顔色を変えず、黙って食べ続けたという。胡堂に金田一、啄木と、きら星が盛岡中にそろった時代の逸話だが、なるほど。明治の昔には、うな重よりもカレーの方が珍味だったのだろう。
  • 冒頭の一文に続けて、盛岡の鰻を胡堂は評した。「東京以上とは申しかねるが、それほど番付が下だとは思わない」。あれ、日本一のはずでは? ともあれ三役級か。胡堂が認めた味を、せめて今夜は。

(2020-07-21 岩手日報