石川啄木はダメ人間? 仮面の奥は… 山田航さん寄稿
- 〈はたらけどはたらけど猶(なほ)わが生活(くらし)楽にならざりぢつと手を見る〉――遺(のこ)した短歌から清貧な印象を持たれることも多い石川啄木。現在配信中のアニメ「啄木鳥(きつつき)探偵處(どころ)」では、そうしたイメージを覆し、うそつきで見えっ張り、酒飲みで女好きな人たらしの歌人として描かれている。だが、「素顔はさらにその奥にある」と歌人の山田航さんは見る。
- アニメには啄木以外にも明治の文士たちが登場するが、当時の文士という存在を、現代の文化人と同じに考えてはいけない。文学は当時の最先端ポップカルチャーだったし、文士たちはときに新聞にゴシップが書き立てられるような、今の芸能人に近い存在だった。
- 「清貧の歌人なんて嘘(うそ)っぱち、啄木は本当は女好きで借金魔のダメ人間だった!」というたぐいのことを話の種として聞いたことのある人は多いだろうが、そのダメ人間エピソード自体が、実は意図的に振る舞って構築した自己演出だった可能性がある。
- 啄木は高尚な文学者などではなく「芸人」なのだから、そのダメ人間ぶりをあげつらえばあげつらうほど、実は彼の手のひらの上で踊らされている。
(やまだ・わたる 歌人 札幌市生まれ)
(2020-07-23 朝日新聞)