西日本新聞 春秋
「故郷」も「古里」もいいがやはり平仮名が温かい…
- 「故郷」も「古里」もいいがやはり平仮名が温かい。「ふるさと」。それは人が生まれ育った土地。帰れば心に安らぎを与えてくれる場所である。
- そんなふるさとに焦がれた歌人が石川啄木。停車場にわざわざ<訛(なまり)>を聴きに行き、病床で<ふるさとに行きて死なむ>と思う。川岸の柳が青々と芽吹くふるさとの春の光景を目に浮かべ、望郷の念に泣きたくなる歌も。<やはらかに柳あをめる北上の岸辺目に見ゆ泣けとごとくに>。
- この春、地方出身の都会の若者たちは啄木のような心境では。暦では今日から5連休だが、新型コロナウイルスの影響で帰省は自粛せざるを得ない。母の手料理も味わえない。父と酒も酌み交わせない。旧友にも会えない。1人で巣ごもりする春は寂しかろう。
- 窮状の若者を支援しようと、ふるさとも動きだした。新潟県燕(つばめ)市内の事業者たちが「お金は出すから」と提案し、市は帰省を自粛する市出身の学生に名産のコシヒカリ5キロとマスクの発送を決めた。賛同の輪が広がり、段ボール箱にはみそに野菜に漬物まで詰められた。
- 500人以上に応援の品が届き、ある学生はツイッターでこう発信した。<なんかほんとに泣きそうになった/ありがとう燕/全国に誇れるふるさと>
(2020-05-02 西日本新聞)