書評
『啄木そっくりさん』 大室精一 著
啄木研究に著者人生を交錯して
評者:小菅麻起子
- 本書は一般読者を意識して、啄木短歌を楽しめるよう、また近年の啄木研究を分かりやすく伝えるために編まれた一冊である。『啄木そっくりさん』のタイトルは、著者の面差しが啄木に似ていることから付けられた。
- 「啄木短歌の魅力」の章では、10のキーワードから、啄木短歌をクイズ形式で楽しめる。例えば「流離」の項、「さいはての(a)《駅・港・国》に下り立ち/雪あかり/さびしき町にあゆみ入りにき」。「しらしらと氷かがやき/《(b)》なく/釧路の海の冬の月かな」。答えは(a)「駅」、(b)「千鳥」。北海道流離の最終地、釧路を詠んだこの2首に関する、新たな解釈も解説される。
- エピローグ「わが青春のメッセージ」では、50年前に大学の「総長賞」を受賞した記念論文「青春の虚妄性に挑む」が収録される。テーマは「人生をいかに生くべきか」。なかに高野悦子『二十歳の原点』から、彼女が死の二日前に書いた詩が引用される。「私が直視しようとしてついにできなかった青春の虚妄性に対して、彼女は真正面から挑んだのだ」「私は文学に情熱を注ぐことにより自分の進むべき道を真剣に問い続けてきた」。著者の人生と文学研究の交わりが証される。
(評者:小菅麻起子さん 国際啄木学会会員)
『啄木そっくりさん』
大室精一 著 桜出版 1,200円(税別)
(2019-09-29 しんぶん赤旗)
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