◎啄木文学散歩・もくじ https://takuboku-no-iki.hatenablog.com/entries/2017/01/02
四万十市「幸徳秋水碑」から 高知市「石川啄木碑」へ <9>
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(2019年2月のニュース)
「啄木短歌に現れる幸徳秋水」
近藤典彦
- 石川啄木は文学上の飛躍をなしとげるにあたり、いつもまず理論的・思想的準備を先行させた。準備が万全であるほど飛躍は大きく、成果は輝かしかった。啄木の生涯においてもっとも大きな影響を与えた日本人の思想家を二人挙げるなら、一人は高山樗牛、もう一人は幸徳秋水であろう。
赤紙の表紙手擦れし
国禁の
書を行李の底にさがす日
(『一握の砂』)
時代閉塞の現状を奈何にせむ秋に入りてことに斯く思ふかな
(「創作」10月号)
- 作歌は9月9日である。8月下旬~9月初めに執筆されたと推定される有名な評論「時代閉塞の現状」と同一のフレーズが詠みこまれた歌である。「時代閉塞」とか「閉塞状況」といった語が現代においてもしばしば使われるのは、この評論のタイトルが一時代の特質を世にもあざやかに表現したからであり、日本の近代がその特質をくりかえし再生産して、このフレーズをくりかえし人々の脳裡によみがえらせるからである。
- 『平民主義』の中で幸徳秋水が全身全霊をかけて闘っているのは、まさに時代閉塞の現状そのものなのである。そのことはこの書を読む者誰しもが感得するであろう。したがって掲出歌も秋水の『平民主義』と血脈を通じているのである。
地図の上朝鮮国にくろぐろと墨をぬりつゝ秋風を聴く
(「創作」10月号)
- 韓国併合の過程においてこれをもっともきびしく批判したのは木下尚江をはじめとする幾人かの社会主義者たちであったが、この8月下旬という時期はまさに大逆事件の暴風が吹きあれて社会主義者の主な者はほとんどが獄中にあり、獄外の者もひっそくしていた。木下はすでに社会主義運動から身を退いていた。したがって日本中誰一人抗議の声をあげる者がなかったとき、一人石川啄木のみは掲出歌を詠み、若山牧水主宰の「創作」にこれを発表したのであった。
(『『一握の砂』の研究』近藤典彦 おうふう)
8月6日の「啄木クイズ」の答えと解説
「大逆事件」啄木雑学 47
冒頭の詩は啄木の私家版詩集ノート<①『呼子と口笛』>に記された詩である。「大逆事件」とは<②明治>天皇暗殺未遂計画を問うもので、「幸徳秋水事件」ともいう。
裁判は秘密裏に運ばれたが、新聞社に勤めていた啄木は判決の日の日記(明治44年1月18日)に<③「日本はダメだ。」>と記した。それは桂太郎内閣が言論や思想の統一を政治の権力で弾圧し、全国の社会主義者ら数百人を捕縛して取り調べた事件でもあった。
翌年の判決で幸徳以下12名が死刑。残り12名を無期懲役。2名は有期刑とした。
歌集<④『一握の砂』>の中には、これらをひそかに告発する幾首かの歌が含まれている。
(『クイズで楽しむ啄木101』
大室精一 佐藤勝 平山陽 著
桜出版 2019年7月発行)
(つづく)