[アカシア]
天鐘(3月14日)
- 1910(明治43)年、石川啄木が24歳で初めて出版した歌集『一握(いちあく)の砂』に、〈「さばかりの事に死ぬるや」「さばかり の事に生くるや」 止せ止せ問答〉の1首がある。
- 然(さ)ばかりとは「それくらい」の意。それくらいの事で死ぬのか、そして生きるのか―との自問自答だ。文学を志したが小説が書けない。借金まみれの自分を頼って上京する家族。啄木の苦悶(くもん)が滲(にじ)む。
- 出版の3年後には夭折(ようせつ)しているから“晩年”になる。啄木が没した翌年に生まれ、今年105歳になる水墨美術家、篠田桃紅さんが一昨年著した『一〇三歳、ひとりで生きる作法』でこの歌を引き合いにしている。
- 篠田さんは問答は止めようという啄木を「正直な人」と呼ぶ。彼の4倍生きている篠田さんは著書に「熱中していると次のことにつながる。次がいいか、つまらないか、分からないから続いている」と述べる。「なんだかんだ、まあまあで生きる」のがいいと書いている。
(2019-03-14 デーリー東北)