書評)『十五の夏』(上・下) 佐藤優〈著〉
評・佐伯一麦(作家)
世界に向かう真っ当な好奇心
- 石川啄木は〈不来方のお城の草に寝ころびて〉と15の心を詠(うた)い、尾崎豊は〈盗んだバイクで走り出す〉と15の夜を歌った。川端康成は、数え16で〈しびんの底には谷川の清水の音〉と寝たきりの祖父を日記に記した。そして、本書の15歳の「僕」は、高校1年の夏休みに、理解のある親に旅費48万円の大半を出してもらい、当時は珍しかった東欧、ソ連への一人旅へ出る。
- ある種、恵まれた境遇にある少年の旅行記であり、〈共産主義に かぶれているんじゃないだろうか。少し頭がいいと思って、生意気なことをするんじゃない〉と非難する日本人の大人と旅先で出会うこともあるが、「僕」の世 界に向かう姿勢の真摯(しんし)さ、真っ当な好奇心の在り方が、自(おの)ずと読者に自分の15を振り返らせ、旅の行方を見守りたい思いにさせる。