[ハナミズキ]
風土計
- 1911(明治44)年、夏目漱石44歳の年だから亡くなる5年前。「道楽と職業」と題した講演で、職業観を披歴している。いわく「自分のためにする事はすなわち人のためにすること」。
- 自分が人より抜きん出ていることで人より多く仕事をして、見返りに着物をあつらえるなど、自分に足りないところを補いながら生活を持続する。人のためにする分量は、すなわち己のためになる分量−と説く。
- 例外は「科学者哲学者もしくは芸術家のようなもの」。物の本によれば、漱石は当時、朝日新聞所属の職業作家として月給200円。公務員の初任給を基準に今の貨幣価値に換算すると、400万円に相当する。
- 帝大出の漱石にも相応の苦難はあったにせよ「道楽本位に生活する人間」としては恵まれた部類だろう。盛岡中学を中退して渋民の小学校の代用教員になった石川啄木は月給8円。函館の小学校では12円だった
- 国税庁長官や事務次官の退職金は5千万円前後。「人の御機嫌」への過剰な忖度(そんたく)やふらちな「道楽」が疑われる引き際にも、ご本人は適正な「分量」と思うだろうか。