〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

 文芸誌「視線」 「教科書に掲載の啄木歌」 <その2 おわり>


[ヤツデ]


◎文芸誌 「視線」第8号 2018.1 <その2>
 (「視線の会」発行 坂の町 函館から発信する 新しい思想 新しい文学 新しい生活)


評論『「教科書に掲載されている啄木の歌」
  栁澤有一郎


研究の目的

  • 今回、調査するにあたり、小学校・中学校・高校の全校種を対象とし、掲載されているすべての作品について調査することにした。
  • 現行教科書のあらましを知るとともに、校種別の差異や、校種間のつながりを確認するためである。この調査から得られた知見は、石川啄木の学校教育の中での位置付けを浮かび上がらせることになるだろう。

調査・研究の方法 (略)

調査結果

 小学校

 掲載数の多い作品

  金色のちひさき鳥のかたちして銀杏ちるなり夕日の岡に  与謝野晶子(4点)

  くれなゐの二尺伸びたる薔薇の芽の針やはらかに春雨のふる  正岡子規(2点)

 啄木歌

  • 他の歌人が特定の作品に偏る傾向があったのに対し、啄木の5首はすべて異なる作品。

  晴れし空仰げばいつも/口笛を吹きたくなりて/吹きてあそびき

  たはむれに母を背負ひて/そのあまり軽きに泣きて/三歩あゆまず


 中学校

 掲載数の多い作品

  観覧車回れよ回れ思ひ出は君には一日我には一生  栗木京子(5点)

  くれなゐの二尺伸びたる薔薇の芽の針やはらかに春雨のふる  正岡子規(4点)

  不来方のお城の草に寝ころびて/空に吸われし/十五の心  石川啄木(4点)

 啄木歌

  やはらかに柳あをめる/北上の岸辺目に見ゆ/泣けとごとくに

  ふるさとの訛なつかし/停車場の人ごみの中に/そを聴きにゆく


 高等学校

 掲載数の多い作品

  その子二十櫛にながるる黒髪のおごりの春のうつくしきかな  与謝野晶子(21点)

  白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ  若山牧水(17点)

  マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや  寺山修司(16点)

 啄木歌

  不来方のお城の草に寝ころびて/空に吸われし/十五の心(13点)

  いのちなき砂のかなしさよ/さらさらと/握れば指のあひだより落つ(5点)

  友がみなわれよりえらく見ゆる日よ/花を買ひ来て/妻としたしむ(4点)


調査結果をふまえて

  • 小中高を通じてもっとも多く掲載されているのは「不来方の」歌で、計18首が確認できた。小学校から高校1年までの学校教育をつうじて石川啄木という歌人を理解する根本にこの歌がもっとも関わっているといえよう。
  • 小中高で石川啄木の短歌は合計54首が掲載されており、もっとも多い与謝野晶子の57首には及ばないものの、種類においては最多である(啄木は20点、次点は晶子と茂吉の14点)。「不来方の」歌だけが突出して多いだけで、他は偏りなく掲載されている。すなわち、学校教育で学ぶ歌人の中で、さまざまな作品をとおして人物像に迫る機会は石川啄木がもっとも持つと言えるのである。

(おわり)