〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

「便所より青空見えて啄木忌] 寺山修司

[サクラ]


「ふるさとは籾おろすころ啄木忌」[毎日新聞>季語刻々]

  ふるさとは籾(もみ)おろすころ啄木忌 朝妻力(りき)

  • 今日は啄木忌。短歌や評論で時代を敏感にとらえた石川啄木は、1912年の今日、26歳で死去した。「やはらかに柳あをめる/北上の岸辺目に見ゆ/泣けとごとくに」は岩手県生まれの啄木の望郷歌。「籾おろす」は苗代に籾をまくこと。<坪内稔典

(2017-04-13 毎日新聞記事


「ローマ字日記」[愛媛新聞>地軸]

  • 「東京へ来てもう1年だ!…が、予はまだ予の家族を呼び寄せて養う準備ができぬ」。105年前の今日、26歳で早世した歌人石川啄木の日記にこうある。妻子を北海道に残し上京した日々をつづった。
  • 原本は「妻に読まれたくない」とローマ字で記している。当時は借金を繰り返し、自堕落な生活を送っていた。ならば書かなくてもと思うが、天才歌人は真実の記録にこだわった。でも、知られたくない。そのジレンマの解決策がローマ字だったのだろう。
  • 「文学的興味を感じさせないページは一つもない」。日本文学研究者のドナルド・キーンさんは「石川啄木」(新潮社)で高く評価する。感情的な生活を赤裸々に描いた「自伝」だと。日記は焼却されるはずだった。「死んだら全部焼いてくれ」と啄木が友人に遺言していたからだ。だが北海道の図書館職員が「職務上の責任感と、啄木が明治文壇に重要な存在だから」と反対し、現代に伝わる。
  • 啄木作品は先の大戦直後に人気が高まり、日記のおかげで人物像の研究も進んだ。本人は泉下で嫌がっているかもしれないが、貴重な「記録」として後世に伝えようとした先人の気概に倣いたい。資料の価値は歴史が評価するのだから。

(2017-04-13 愛媛新聞記事


「真央ちゃん引退」[宮崎日日新聞>くろしお]

  • 「若山君は誰にも愛される目をしている」。啄木は日記に記しているように、牧水に好感を持っていた。交際期間は短かったが、最期まで丁寧に啄木の面倒を見た牧水の人の良さは、出身地である本県としては誇らしい。牧水が記した臨終の様子は貴重な記録だ。
  • 「世の中の明るさのみを吸うごとき黒き瞳の今も目にあり」。啄木忌の今日、歌集「一握の砂」の歌が浮かぶ。フィギュアスケート界から引退し、大きな話題となっている浅田真央さんがこれまで銀盤上で見せた演技を思い出すからだ。
  • 世の中の明るさを吸ったように輝いていた。明るくて、はつらつと見せる競技の性格もあろう。昨日の引退会見では花を散らす涙は見せず、ベストを尽くした満足感を笑みに浮かべた。お疲れさま真央ちゃん。アイスショーでまた大きな花を咲かせてください。

(2017-04-13 宮崎日日新聞記事


「よみがえった少年期」[高知新聞>声ひろば]

  • 強いチームが都道府県代表として全国舞台に臨む夏とは違い、センバツ21世紀枠には何かしら関心を寄せてきた。選ばれた学校の地域性や背景に興味を持つからだ。今年の枠には胸躍る校名があった。岩手の不来方(こずかた)高校である。返り点で読む校名に少年期が浮かんだ。
  • 昭和30年代、時代背景もあってか啄木の「一握の砂」に取り込まれた。物憂げな作風の中で「不来方のお城の草に寝ころびて空に吸われし十五の心」という歌に出合った。
  • この歌を想起させた不来方高。ナインのプレーは勝敗を超えた美しさがあり、無念より達成感の思いの尊さを教えてもらった。
  • 久々に JR 高知駅脇の「啄木碑」を訪ねてみた。ひっそりした佇(たたず)まいの中に十五の心がよみがえった。【笹岡良昭 高知市

(2017-04-13 高知新聞記事


「啄木忌」[陸奥新報]

◯ 便所より青空見えて啄木忌(寺山修司

  • 寺山の高校生時代、昭和20年代末頃の作。季語としての忌日に季節感は乏しいと思っているが、「啄木忌」は比較的馴染(なじ)みがあるのでは。掲句の〈便所〉には、独特のアンモニア臭の記憶が漂う。青春の懐かしさ、甘酸っぱさが蘇(よみがえ)る。早熟の天才、詰襟の寺山修司が凛々(りり)しくて眩(まぶ)しい。『寺山修司俳句全集』所収。

(2017-04-13 陸奥新報記事

◯ 啄木の三倍生きて啄木忌(野沢しの武)

  • 石川啄木(いしかわたくぼく)が貧困と闘病のうちに27歳の生涯を閉じたのは1912(明治45)年の4月13日。歌人として社会思想に目覚め、和歌の革新を志し口語体で生活感情を三行書きで歌集「一握の砂」などに盛り込んだ。作者は〈啄木の三倍生きて〉戦争の昭和を越え、医師の眼で“見える俳句”に打ち込んでいる。句集「老樹」から。(2016-04-13 陸奥新報

◯ 羊羹の切口かわく啄木忌(敦賀恵子)

  • 羊羹(ようかん)の切り口が乾くと砂糖が浮き出してくる。好みの違いはあるが、この切り口のざらめきに歯ごたえを感じる人も多いようだ。きょう13日は歌人石川啄木の祥月命日。啄木が甘党だったかはさておき、薄幸の歌人の歌集を作者は、きのうとは違う羊羹の食感を味わいながら短歌の世界に浸るのだろう。句集「雪のワルツ」から。(2014-04-13 陸奥新報

◯ 溜め息も言葉のひとつ啄木忌(太田直樹)

  • 文学を志し、新聞記者や代用教員をしながら小説の創作に没頭するが果たせず、26歳で没した。歌集「一握の砂」「悲しき玩具」は代表作。「溜(た)め息も言葉のひとつ」は、なし得なかった啄木に対する思いやりの真心であろう。肺結核で若い人が命を落とす過酷な時代背景が胸を打つ作。(2013-04-13 陸奥新報

◯ 啄木忌小さき旅の途中下車(泉涼女)

  • 新聞記者や代行教員をしながら小説の創作に没頭。1912年、肺結核で没。歌集「一握の砂」「悲しき玩具」は代表作。作者は連綿と愛(あい)誦(しょう)された啄木の歌をこよなく愛していたに違いない。きょうはきっといいことがあると信じ切って下車した作者もまた詩人。此岸合同句集の一句。(2012-04-13 陸奥新報