〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

石川啄木は変幻自在に姿を変え、どこへでも飛んでいく……


[ゲンノショウコ]


◯酔狂道中記
凡人が「天才」になれる時

 ○めっちゃ関西

  • 独創的な芸術家や科学者とは、「いまだ存在せざるものを心の中で見たり聴いたりした人」なのだろう。たとえばゴッホの「星月夜」−−あんな風景は、ゴッホ以前には誰も目にしたことがない。それを彼の「天才」は、いつか確かに「見た」のだ。
  • これと似たことが、夢の中ではぼくら凡人にも時に可能になる。夢を見ている人は誰もが「天才になっている」のかもしれない。
  • そんな自由な想像力には誰もが憧れる。中でも、それを希求した石川啄木は、変幻自在に姿を変え、どこへでも飛んでいく空の雲に託して「雲は天才である」という小説を書いた。ただ、この小説は未完の失敗作で、啄木自身も、「くだらない小説を書きてよろこべる男憐れなり初秋の風」と詠んだ。
  • その啄木が短歌にはすばらしい作品を残した。寝入りばなの夢のような、のどかで懐かしい田舎の夕暮れ風景がほうふつするこんなのが、私は好きだ。

  「宗次郎におかねが泣きて口説き居り大根の花白きゆふぐれ」

  • やっぱり「雲より夢」こそが「天才」なのだ。

  <ものがたり観光行動学会副会長 高田公理>
(2016-09-23 毎日新聞>大阪夕刊)