〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

発刊「石川啄木」子規を近代人、啄木を現代人と読み分ける

歌人読み解き世界へ コロンビア大名誉教授 ドナルド・キーン
  石川啄木」(新潮社)を出版 英語版も

  • コロンビア大名誉教授のドナルド・キーン氏(93)の評伝「石川啄木」(訳・角地幸男氏)が新潮社から発刊された。文芸批評の原点に立ち返り、啄木の詩歌をテキストに、愛する日本を照射した。キーン氏は正岡子規を近代人、啄木を現代人と、ともに敬愛しながら読み分ける。日米の戦後史を生き抜いてきた文人が、青春の光と時代の影を刻印する魂に共鳴した。米国でコロンビア大出版局から英語版を刊行予定。母国語と日本人の美意識で、盛岡の先人の生涯をしたためる。
  • キーン氏は1922年ニューヨーク生まれ。米海軍の一員として日本に進駐し、戦後は語学を生かして職を得て、文学研究に打ち込んだ。
  • 京大の桑原武夫の紹介で、若き日本学徒として啄木に出合った。「ローマ字日記」の世界をさまよいながら、啄木論を書き上げた。盛岡中学での挫折、上京と放蕩、北海道への放浪と望郷、生活苦と病魔、左翼思想への共感、家族の破綻。苦闘の人生と知性の行間に入り込み、限りない哀惜を込め、その手に不朽の歌を握る。
  • 「啄木はよく、短歌は現代の日本語で書くべきだと言った。明治の日本語であるべきだと。しかし彼の短歌は全部、文語体だ。どうしてか、彼は何も説明しない。彼にとってそれは彼の言葉だったからだ。文語体は自分が外国語でもなく、古い日本語でもなく、自分の言葉だった。しかし証拠がない」。歌人はいまなお、尽きぬ謎であり続けている。(鎌田大介)


  四六判378㌻、2376円。

(2016-03-03 盛岡タイムス)

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