〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

奥さんに「犬を飼おうか」と言ってみる啄木


[ウメ]


*2014年3月5日の放送を視聴して
巨匠たちの輝き〜歴史を作ったアーティストたち〜
 <第22回「かなしみの詩」BS-TBS


「夢を追う者のかなしみ」を描いた石川啄木
啄木の詩の魅力

  • 高橋 源一郎(小説家)  普通の人が普通に生きている生活をそのまま歌にした。

< 何となく汽車に乗りたく思ひしのみ/汽車を下りしに/ゆくところなし >
「あ、おれもそうだ」という通奏低音(ベースにあるかなしみ)を取り出したところがすごい。
< ふるさとの訛なつかし/停車場の人ごみの中に/そを聴きにゆく >

  • 森 義真(石川啄木記念館副館長)  当時、地方から都会に仕事を求めてきた人が多かった。ふるさとには帰れないが、駅にいけばふるさとのことばと触れ合えるという、誰にもある気持ちを啄木がうまく歌いあげた。
  • ナレーション  啄木は神童と呼ばれ、文学で身を立てる夢を抱くが、家族を支えなくてはならない。小説家を志すも、挫折。そんなある日、突然頭の中に短歌が湧き出て3日間で281首という膨大な短歌を書き上げる。

< こみ合へる電車の隅に/ちぢこまる/ゆふべゆふべの我のいとしさ >

  • 森  小説家になれない挫折が、歌人啄木を生み出した。

2人が描いた死のかなしみ

  • ナレーション  石川啄木は「一握の砂」を発行したとき、死の病・肺結核におかされていた。自らの死を前に、それでも死ぬまで歌を詠み続けた。死後に出版された歌集「悲しき玩具」には、< 庭のそとを白き犬ゆけり。/ふりむきて、/犬を飼はむと妻にはかれる。>の歌がある。
  • 森  啄木の生活には犬を飼う余裕はなかった。でも、それをちょっと奥さんに「犬を飼おうか」と言ってみる、そこに啄木の願望があらわれている。
  • 高橋  この犬の歌は、希望のひと言になっている。詩人の義務は実況中継。生きていくかなしみを歌い、子どもの死に直面し、最後に自分の死に直面する。だけど、歌人であり詩人だから「かなしみ」から目をそらさない。生きなくてはならない。だから、人は啄木の歌を読むと元気が出る。