〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

石川啄木 著(P.22〜23)何となく汽車に乗りたく思ひしのみ

[ヤグルマハッカ]


我を愛する歌


(P.22)


   何となく汽車に乗りたく思ひしのみ
   汽車を下りしに
   ゆくところなし


   空家に入り
   煙草のみたることありき
   あはれただ一人居たきばかりに



<ルビ>何となく=なにとなく。空家に入り=あきやにいり。煙草=たばこ。


(P.23)


   何がなしに
   さびしくなれば出てあるく男となりて
   三月にもなれり


   やはらかに積れる雪に
   熱てる頬を埋むるごとき
   恋してみたし


<ルビ>三月=みつき。熱てる頬=ほてるほ。


《つぶやき》
「やはらかに積もれる」"雪"……にではないが、どこでもいいどこかそこらへんの何かに埋まってみたいと頓に感ずる。雪の冷たさと柔らかさ、頬の熱さと心の高まりがいっきに襲ってくる。