〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

望月善次〈『あこがれ』石川啄木〉9

[ウバユリ]


〈音読・現代語訳『あこがれ』石川啄木〉9 望月善次
 楽声(がくせい)

  音楽の力は、これほど絶妙なのです。

日(ひ)暮(く)れて、楽堂(がくだう)萎(しほ)れし瓶(びん)の花(はな)の
香(かお)りに酔(ゑ)ひては集(つど)へる人(ひと)の前(まえ)に、
こは何(なに)、波渦(なみうづ)沈(しづ)める蒼(あを)き海(うみ)の
遠音(とほね)と浮(う)き来(き)て音色(ねいろ)ぞ流(なが)れわたる。


  〔現代語訳〕
  楽声(音楽の響き)

日も暮れて、この音楽堂には、萎れてしまった瓶に挿された花の
香りに酔ったように集まった人々の前に、
これはどうしたことでしょうか、波の渦が沈んでいる蒼い海の
遠くからの音のように、浮かび上がった音色が流れ渡ったのです。

(2010-08-05 盛岡タイムス)

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